催眠療法の一人者であるミルトン・エリクソンをモデリングして作られた、メタモデルに続くモデル。グレゴリー・ベイトソンの紹介でエリクソンに会いに行ったとき、バンドラーグリンダ―は、メタモデルと正反対の言葉の使い方で成果を挙げていることに衝撃を受けたという。

ミルトンモデルは催眠の一種ではなく、そこで使われている言葉の使い方を体系化したもので、催眠以外にも、様々なコミュニケーションの現場で使用できる。

ミルトンモデルは、クライアントの表層意識の抵抗を起こさず、無意識にダイレクトに働きかけるため、非常に効果が高い。

ポイントは、聞き手のイエス・セットを取っていくことである。クライアントが、Noあるいは疑問に思えば、誘導は失敗する。なので、いかに受け入れられるかが重要である。

ミルトンモデルの一部は、メタモデルの「削除」に対する質問とは反対に、意図的に曖昧な言葉を使う。「削除」されている部分は聞き手が自身で意味を与える。なので抵抗が起きにくい。通常のコミュニケーションでは誤解になりかねないが、催眠誘導では、ある程度の方向性が受け入れられれば詳細はよく、イエスセットを取ることで次の誘導への土台になる。

また、直接命令すると抵抗が起きやすいので、疑問形にしたり、逆説的に否定命令を使うことで、受け入れられやすくなる。

ミルトンモデルの骨頂と言えるのは「前提」だろう。前提は、聞いている側の注意をそらして、気づかないうちにこっそりとビリーフや命令を埋め込んでしまうテクニックだ。

 

カテゴリ パターン 意味・例

間接的

埋め込み命令 文の中に誘導を埋める。「あなたはリラックスできます」
アナログマーキング 声のトーン、リズム、強弱、動作など非言語的なアナログ的要素を使う。
埋め込み質問 「あなたが催眠で得たいと思うことを知りたいな、と思うんですよ」
否定命令 「リラックスしすぎないでください」
会話的仮定 はい・いいえで応える質問だがそれ以上尋ねている。「ドアを閉めることはできますか」
メタファ 相手に伝えたい教訓を物語や例で伝える
引用 人の言葉を使って、間接的に伝える。そのメッセージに対する責任を持たなくてよくなる。他人の言葉は否定できない。

前提

時間の従属節 「~の前に」「~の後に」「~しながら」
「宿題を終える前に話したい」(宿題を終えるのが前提)
序数 「最初に」「一番に」「二番目に」
「身体のどこが最初にリラックスするか」
選択肢 「掃除と買い物どちらをしますか」
気づきの叙述 「自分の魅力に気づいていますか」
副詞・形容詞 「深くトランスに入りたいですか」
時制と副詞 「あなたはリラックスし続けることができる」
論評的形容詞と副詞 最初の言葉で後のすべてを前提にしてしまう。
「幸運にも、あなたはそれを手に入れています」

削除

不特定名詞
不特定動詞
名詞化
具体的に何であるかは、クライアント側が内容を埋める
主体の省略 話し手の意見ではないことを示すことで反論しにくくなる。不特定多数を暗示すると、反論しにくい。
「あの映画は評判がいいという話をよく聞きます」
比較の削除 比較対象、基準が削除されることで、クライアントは自身で基準を設定する。
一般化 可能の叙法助動詞 可能性があることは否定しきれないので受け入れやすい。

歪曲

連結語 実際に起こっていることと話し手が起こってほしいこととの間に因果関係が含まれる言葉を使うと、聞き手は実際に起こっていることが他のことの「原因」であるかのように反応し誘導される。
因果 理由をつけると、人は受け入れやすい。
○○だから△△なのです。
等価 最初にYESの反応をが来ることを入れることで、後の内容を受け入れやすくなる。
○○ということは△△を意味しています。
読心術 誰にでも当てはまるようなことを言って、信頼を増す(占い師がよく使う)


上記は、日常のコミュニケーションでも使えるパターンだが、催眠ではそれ以外にも、

・相手の体験にペーシング
 例えば、相手が現在椅子に触れていたら、その感覚を使う。大きな音がしたとしても、それをそのまま使う。
 「削除」を使うことも相手の体験にペーシングすることになる。具体的な情報が削除された曖昧な言葉を使うことで、相手は自分の体験で削除された部分を埋める。

・思考を混乱させ無意識につなげる
 句読点の位置や同音異義語などの曖昧さを使って意識の働きを弱める。

などのテクニックが使われている。

・メタモデルの反対がミルトンモデルではない
メタモデルの対比として、普遍的数量詞や「しなければならない」「できない」などの叙法助動詞を使うパターンが、ミルトンモデルとして組み込まれている。
が、これは聞き手のモデルを制限することになるので、「削除」のように選択肢を与えているわけではなく、埋込命令のように間接的に伝えているわけでもなく、また前提のようにこっそりと誘導しているわけでもないので、イエスセットを取るにはうまく使う必要がある。
これらはどちらかというと、みんなそうしているという社会的証明を使った誘導と考えると、受け入れやすいのかもしれない。

メタモデルの対になっているからと言って、削除・歪曲・一般化を使えば、ミルトン言語になるわけではない。ミルトン言語のすべてがメタモデルと対になっているわけではない。削除・歪曲・一般化は、言語一般の特性である。単なる自己主張に過ぎず、そのままではミルトン言語にはならない。「あなたは目標を達成できません」はミルトン言語ではない。ミルトン言語となるためには、催眠誘導で、相手が受け入れ可能な言葉である必要がある。


●セールス等への応用

元は催眠のための言語であって、それを応用してセールスとかにも使えるが、相手を説得、信用、誘導させるすべての要素が含まれているわけではない。影響言語や影響力の武器なども考慮した方がいい。


● メタモデルとミルトンモデルの関係性

メタモデルは、削除・一般化・歪曲を暴露し、真実真意を明らかにし、複数の選択肢を開示していくのに対して、ミルトンモデルは、削除・一般化・歪曲、曖昧さを意図的に活用して、目的の方向に誘導していく。

メタモデルは、制限ビリーフを解放し、ミルトンモデルは、役に立つビリーフを埋め込む
メタモデルはフラットにしていき、ミルトンモデルは一つを際立たせることになる。解体創造顕現解放される自由と実現する自由と言える。

どちらも使いようによっては、いい方向にも悪い方向にも使える。メタモデルを極めれば、騙されることがなくなり、議論にも強くなるかもしれないけど、相手の意見を否定し、怒らせることにもなる。一方ミルトンモデルは、相手を間違った方向に誘導して、洗脳・セールス・扇動・詐欺に応用できてしまう。

NLPの例に上げられているのは、どちらも、自他に対して、選択肢を狭めて可能性を制約している状況から解放し、選択肢を広げ、「できる」という意識に変えていく、という点で共通している。ミルトンモデルでは、「できる」ということを「前提」にしてしまうテクニックが用いられている。

メタモデルの正反対というわけではないが、メタモデルを使ってミルトンに対抗することはできる。広告・宣伝にミルトンモデルの要素がかなり含まれているが、安易に引っ掛からないようにするためには、メタモデルで対応するのがいいだろう。

● 曖昧さの必要性
情報の削除・省略がコミュニケーションのズレの原因となっている場合、メタモデルが有効である。
しかし、削除された状態のまま、詳細化しない方がいい場合もある。いわゆるグレーゾーンを残しておくというもの。
例えば、上司から指示を受ける。詳細を聞いたら、そんなもの、絶対に予定に間に合わないとする。間に合わせようとしたら、1日24時間仕事をしないといけない。頭の固くて愚かな上司の場合、どうでもいいことでも何が何でもやれと言う。
あるいは、お役所的な部門に、内容を詳細化して、これやっていいですかと許可を求めると、駄目としか言わない。
曖昧にしておけば、いろんな解釈の余地があることをいいことに、こうだと思っていました、という言い訳もできる。あまりにも厳密にしてしまうと、柔軟性が失われる。