【タイトル】 心を読み解く技術
【著者】 原田幸治
【ページ数】 358

 

 

【読むきっかけ】
同著者の『心が思い通りになる技術』を読んだことがきっかけ。


【何を得ようと思ったか】
パートに関する解説をしている本書についても、深い解説があることを期待して。

【概要】
『心は集合体』という発想を基にして、さまざまな悩みを解消する方法を紹介

【対象】 NLPを知らない人でも十分理解可能。様々な悩みや精神状態のコントロールに悩んでいる人。
【評価:★5段階で】
 難易度:★★★
 分かりやすさ:★★★★
 ユニークさ:★★★★★
 お勧め度:★★★★★

【感想】
前回読んだ『心が思い通りになる技術』は独自の視点から、エンジニアっぽく書かれているが、多少くどい部分があったが、それと比べると、エンジニア色は薄く、非常に読みやすい。が、非常に深いところまで突っ込んでいる。

著者の、人間の感情に対する理解、考察は、正直感嘆に値する。いろいろと心理学や宗教・哲学について本を読み漁った自分でも、ここまで細かく掘り下げて直接的に心を分析している本には出合ったことがない。そういう意味で、驚きと発見の連続であった。

これが、単なる熟考から出ているのであれば、それは少し違うんじゃないか、と思うところもあるのだが、著者のセラピーでの実体験から生み出されており、非常に説得力がある。

多くの心理学をはじめとする心の理論を提示するものは、理論に合わせて、心を定式化し、それに沿って解釈しようとする。そのため、シンプルだ。一方、この本は経験から出発しているから、より現実に沿っている感じがする。もちろん、細かい点を見れば、やはり定式化しすぎじゃないのか、とも思える点はある。

注意点としては、本書でも注意事項として書かれているが、感情に付けてあるラベルは、あくまでも著者および著者のクライアントでの定義である点で、例えば「傷つき」というものは、そういう定義での感情と解釈しないと、いや、そうじゃないと思ってしまう危険性はある。おそらく批評する人がいたとすると、心はそんな単純なものではない。深い部分は分かっていない、と言うかもしれない(私の一部のパートがそう思っている!?)。少なくとも現時点の自分では、そう言えるだけ、細かく心を観察していなかったともいえる。

ポイントは
・感情を抑え込まない
・一つ一つ丁寧に扱う
・感情には肯定的意図がある
・生理現象の部分は、発散するなりして落ち着かせる
・悲しみは感じつくす
・リフレーミングする
・自分自身をいたわる
・重要な価値に気づく
・ポジティブな方向にエネルギーを向ける


特に、意図・価値観を自覚すること、何を大切にしたかったのかに気づく、ここが最も重要なところ。

これまでNLPの本を集中的に読んできて、それまではNLPとは何かについて解説している本ばかりで、これはそこまでNLPで言っていないだろう、というような印象を持ったが、NLPのパートという概念から、著者のセラピーでの経験を踏まえて、心を分析した本というのが正しいだろう。著者もこう述べている。

「本書の内容の土台はNLPにありますが、ここで紹介したほど細かく心の動きを調べるのはNLPの分野でも主流ではありません。あくまで私自身がNLPの視点で、多くの人の心の動きを理解しようとしてきた結果です。クライアントや受講生の皆さんから心の動きを教えてもらい、パターンとして整理(モデリング)したということです。私個人のアイデアではなく、多くの人がこうやって悩みを解消してきたという財産です。私が皆さんから、悩みを解消する原則を教わったのです。」

【批評点】
分析は素晴らしいものの、対策の部分は、ときおり、不十分さを感じる。いろいろと、著者なりの、「リフレーミング」がかなり入っている。感情に対して、もっと本質的な理解が必要な感じもする。

 

一般的にある感情として取り上げられていないのが、

・劣等感、優越感

・依存、渇望

・憂鬱、無気力

またコミュニケーションの章で、自分の意図をきちんと伝える、というのがあるが、多くの場合、その通りだが、実際利己的な動機から始まっている場合、自分の意図を伝える恐怖があり、それを相手にストレートに伝えるのは難しい。私が幸せを感じたいから、こうしてくれは要求しにくい。
だから、大義名分や、相手の問題点を指摘する。隠れた意図があるが、自己中心、わがままだと思われたくない。
この部分は、自分なりにいろいろ考察したが、本書の感想からかなり外れるので、ここまでにする。

【要約・メモ】

悩み = 問題 × 対処不能性

心は一つのものであるという考え方に対して、心は集合体
 それぞれ役割分担
 役割同士が対立
 大半の場合、複雑な気持ちも、せいぜい2,3の役割が入れ替わっている

心理学:全ての人に共通する心の性質を調査
NLP:一人一人の心の違いを説明する仕組み

心はプログラムの集合体
 それぞれの部分をパートと呼ぶ(プログラムを擬人化
 この考え方は、二つのプログラムが対立、「○○したい。でも、つい△△してしまう」という葛藤を解決するために使われる。
 葛藤が解消されると、選択肢が増えて、自由な感じに。「やりたければやるし、やりたくなければしない」という当たり前の状態に。

一つのプログラム単体を扱うのか、心をプログラムの集合体として扱うのか
1.一つのプログラムだけに注目して、そのプログラムだけを変える場合
  同じ状況ではほぼ毎回そうなる。それ以外の反応という選択肢がない。前著『心が思い通りになる技術』で解説した方法を適用
2.心を集合体として見る場合
  ①葛藤②迷い③複雑な感情

パートの性質
・出番がある
 ex.部屋の片づけをさせるパート:散らかっている部屋を見たとき
 待機していたパートが動き始める瞬間に注意

・階層構造を作る(会社の組織のようなもの)

・コミュニケーションをする
 「でも、でも...」と行ったり来たり。優柔不断ではなく、別々のパートがそれぞれの気持ちを表現
 「~ない」という否定の表現の場合、もう一段具体的にして、代わりに何をさせているのか。

・同時に動く
 「ずっと気になり続けている」「すぐに頭に浮かんでくる」「頭から離れない」=いくつかのパートが同時に動き続けている合図

パートのメッセージを受け取り、ひとまずパートに出番を終えてもらうこと

パートの気持ちを理解
 気持ち=感情+考え
 感情的な相手を理解するのが難しい
  納得できるまで気持ちを理解するには〈考え〉を聞く。
 考えだけを聞いて論理的に話を進めようとしても空回り
  〈感情〉も理解してこそ相手の気持ちに納得

分かってもらえた感じ=伝えたいことを伝えきったとき=「何を大切にしたかったか」が伝わる

大切にしたいこと(=意図)が行動や感情の理由
話をする側の大切にしたいものが理解できると、感情・行動の理由がつかめる。

パートの肯定的意図

パートは良かれと思って働いている。幼少期にパートが生まれ、自動化される。場面の細かい区別をしないで学習してしまうことがパートの意図を空回りさせやすい。

感情を生み出させるパート≠その感情を抱いている
この「怒鳴らせる」パートが怒りを感じているわけではなく、「怒りの状態を利用して怒鳴らせる」パートが役割を忠実に果たしている。

パートの気持ちを探るコツ
パートが体の中にいると想像して質問を投げかける。分析すると常識的に知っている当たり前の答えしか出ない。「パートは良かれと思ってやっている」という前提で問いかけると、パートの大事な気持ちに気づきやすくなる。「~してくれようとしていたの?」という質問。

行動の選択
部屋の片づけをする意図、先送りする意図どちらも必要な行動。どちらか一方に決めて、毎日同じ行動をする必要はない。部屋を片づけることで心のゆとりや自信を高めたい気持ちが強まったら、片づければいい。無理をしないでリラックスするために先送りしたので、負担が少ないときには少し無理をして片づけてもいい。役割のバランスを調整する。

感情の大切さ
問題を解決するには〈考え方〉か〈行動〉を変えればよい。けれども変えようとしたとき、止めるのが感情。感情が動いている=そこに大事な何かがある。どうでもいいことには感情は生まれない。感情の奥にある大切な気持ちに納得するために、それぞれのパートから順番に話を聞く。感情が解消されれば、考え方・行動を変えるのは簡単。

感情が続く場合
パートの役割は、感情という体の状態を作り出すところまで。怒りの感情が作られたらパートは役割を終えて帰っていく。体の状態は生理的な変化で時間がたてば収まって、普段どおりの状態へと戻る。
しかし、現実はもう少し厄介で、感情を作り出すパートが役割を終えず、ずっと働き続けることがある。「~したいのに、……してしまう」といった葛藤では、二つのパートがやりとりを続けている限り、パートは役割を終えることがない

出来事を思い出せば、何度でも同じ感情を体験してしまう=感情の反芻大事なことほど頭に残る。

基本的な感情


期待からどのように外れているかで、引き起こされる感情の種類が決まる。
基本となる感情=怒り(近い感情:苛立ち、憤り、不満)と悲しみ(近い感情:残念さ、寂しさ、悲嘆、喪失感)

怒りは、
期待から外れたことが起きたとき、……しかも
頑張れば期待したとおりに戻せるかもしれない
場合に生まれる。

ex. 店員が商品を持ってこないことに怒り
商品をすぐに持ってきてくれるかどうかとか、店員が謝ってくれるかどうかは、解決とは直結しない。むしろ「大切に扱ってくれた」と感じられるかどうかが重要

対処
相手に怒りを直接ぶつけるのではなく、一人になって発散。体に力を入れて怒りのエネルギーを発散しながら期待していたことを言葉にすると、不思議なほど怒りは解消される。怒りを抱えたままで、「仕方なかった」と思い込もうとしたり、「何を学べただろうか?」と考えたりするのはリスクを伴う。怒りを抑えこんでしまって、本当に大切にし期待していたことから目を背けてしまいかねない
「大切なものを大切にしたい」エネルギーを利用して、行動に繋げるのも健全なやり方。

不満
体の状態よりも「期待したとおりに挽回したい」という考えに注意が集まる。
問題に気づく力が高いからこそ不満が生まれる。不満は、解決したい意欲がありながらも、感情の矛先が他人や状況に向いているのが特徴。解決のために自分でコントロールできるのは、自分の行動。不満に振り回されないためには、意図を満たせるような自分の行動に関心を向け直す。

対立していたパートの両方の意図に気づけると、二つのパートはお互いの主張を弱めて譲り合うようになる。

悲しみは、
期待から外れたことが起きたとき、……しかも
どうやっても取り戻しようもない
場合に生まれる。

「大切なものを失ってしまったショック」と「それでも大切なものとの繋がりを実感したいという寂しさ」とが、同時に体験されている状態

自分の存在の一部が欠けてしまったような不安定な状態から、いつも期待していたとおりの望ましい状態に戻ろうとする動きが起こる。繋がりを強めようとするときの状態=〈寂しさ〉。安らぎを取り戻したい。

「ショックの反応を作り出す」パート
 このパートの肯定的意図は、緊急事態でも生きのびられる強さを体に作り出すこと。このパートは「失意のドン底でも、頑張って生きてくれ!」と願っている。ショックが大きい場合には、体に表れたストレス反応への対応として、体を労わる。ショックの反応は一時的。時間がたつとパートは役割を終えて、体は落ち着く。
ショックが小さくなってきたら、「あきらめさせる」パートの働きも弱まる。そうなったら「寂しさ」という捉え方を変え、大切な存在との繋がりを感じたいという意図へ素直になれるタイミング。

「大切な存在と、この世で会える自分」というイメージを卒業して、「大切な存在といつでも心の中で会える自分」へと変わること。

幼少期からの経験
期待通り戻せるようになったら、怒りのエネルギーを利用するパターンが身につく。
一方、期待通りに戻せなかったら、あきらめるパターンが身につく。

多くのキッカケは保護者から叱られるとき。有無をいわさない雰囲気や、見捨てられるような雰囲気から、距離が遠ざかってしまったような印象を持つ。このとき、繋がりを取り戻したいときの寂しさが生まれる。
馴染みの感情のパターンが意識されやすいが、誰もが両方を持っている

大きく前面に表れている感情が、一番大事な気持ちとは限らない。他の感情に気を配る。表情や声のトーンからいくつもの感情が同時に表れているのかを観察。たとえば怒っている様子の人、何に腹を立てているか聞いても話が収まらないとき、実は「すごく悲しい思いをした」と分かってもらいたいことも。

複雑な感情

・傷つき
期待が外れたときに生まれる怒りと悲しみの混ざった感情。他人から存在を否定されたことが感情の対象。自分の存在を確認して安心するために、誰かとの繋がりを実感したくなる。

パートごとに感情を発散
「怒りを作り出す」パートと、「寂しさを作り出す」パートの両方をハッキリと分ける。椅子を二つ用意し、片方の椅子に座っている間は怒り、もう一方では悲しみ(寂しさ)と決めておく。
気分が楽になったら、二つのパートから意識を離し、客観的に眺めるような視点になって、傷つけられた相手のことを思い浮かべる。相手の立場になって、その人の気持ちを察する。「まぁ、いろいろあったんだろう」「自分も悪かったのかな」「もっと~したかったな」など仕方ない気持ちが自然と湧いてきたら大丈夫。傷つきが深く、スッキリしないときは〈ゆるし〉が必要。

・失望感
自分に酷いことをした相手に注意が向く。傷つきに加えて、大きな期待外れがあるのが特徴
失望は取り戻せない。良い関係が続くことはあっても、それは元の関係ではない。今までの関係を卒業し、新しい関わり方にシフトすること。

・嫌悪感
酷いことをされた相手と距離をとろうとする
再び同じような酷い目にあいたくないから、相手が近くにいることを不快に感じる。

・不毛感(報われない)
自分が注いでいるエネルギーの量に対して、返ってくる精神的な報酬が足りないときの報われない感じ。時間とともに小さな期待外れが積み重なって作られていることに注意

苛立ちや不満がある場合には、怒りとして吐き出す。
一人になれる場所で、関わっている相手をイメージしながら「なんで私の頑張りを分かってくれないんだ!」「こんなに頑張ったんだから、もっと認めてくれてもいいじゃないか!」「当たり前にやっているわけじゃないんだぞ!」「どれだけ大変だと思ってるんだ!」などと、体の中のエネルギーを発散。
怒りのエネルギーが下がったら寂しさを癒す。

・孤立感、疎外感、孤独感

・独りぼっち
存在を承認してもらえない

・孤立感
すでに仲間意識のできあがっている集団に一人で参加。自分はなかなか打ち解けられず、心を開くことができないのに、周りの人たちには一体感がある、その対比。ここでの期待は、「心を開けるような打ち解けた関係になりたい」「一体感のあるコミュニケーションをしたい」。打ち解けられない傾向の人は拒絶を恐れている場合がある。
その「拒絶を恐れさせる」パートを意識して、「何がそんなに怖かったの?」と丁寧に話を聞く。そして、「それは怖かったね。拒絶されるのは嫌だよね。大丈夫。たくさんの私のパートが、いつもそばにいるから。それに、誰もが拒絶するわけじゃないし。安心できる人かどうかを見極めてから、少しずつ心を開いてみよう」と伝える。自分から打ち解けることができた経験を重ねるほど、恐れも小さくなる。

疎外感
近い関係でありながら、自分ひとりだけ仲間に入れてもらえないような、拒絶されているような体験
「一つの場所で拒絶されても、自分を支えてくれる繋がりは、こんなにたくさんあるんだ」と思えれば、心に余裕が生まれる。繋がりは人間関係だけではなく、自然や動物との繋がり、芸術にも心の繋がり。運動することで体との繋がりを感じる。

孤独感
周りに誰もいないような状況
本人にとって大事な世界観、価値観があって、それにまつわる気持ちを共有したい。しかし自分の大切なものを分かりあえる人がいない。この期待外れから〈孤独感〉が生まれる。

「私にはこれが大切です!」と心の底から堂々と伝えるように努力。ただし伝わったのに相手が賛同しなかったとしても、自分の責任ではない。賛同してくれる人を探すこと。

現状を保ちながら、できる範囲で大切なことをしてみる。「誰も認めてくれなかったとしても、私にはこれが大切なんだ」と認められれば、他人に振り回されなくなる。ゴールは見えなくても前に進め、孤独感に打ちひしがれていた気分は楽になる。

・悔しさ、絶望感

悔しさ
努力が結果に結びつかない、信じた道を進んで夢が途切れたといった期待外れに対して怒りと悲しみが混ざった状態
悔しさが大きいのは「それだけ大切なことに向かって、それだけ一生懸命に努力をしてきた」という証。
目標が途絶えてしまったときには、〈悔しさ〉に加えて〈喪失感〉にも近い悲しみも。

絶望感
その先にあったはずの自分の未来がすべて失われる。目の前が真っ暗になったような強烈なショック。
〈悔しさ〉の大きさに合わせて、解消にも時間をかける。打ちひしがれて落ち込む時期は、ガムシャラに走り続けてきたあとの休憩時間

最初は〈ショック〉の大きさに苦しむ。信頼できる人と一緒に過ごしたり、話を聞いてもらったりして、まずは安心感を取り戻す。ショックが収まってきたら、悲しみの中の〈寂しさ〉に注意。「寂しさを作り出す」パートを意識しながら、浮かんでくる考えを言葉に。そしてパートを慰め、ねぎらいの言葉。
怒りの気持ちが意識されてきたら、その気持ちを言葉に。「クッソー……!」といった怒りのエネルギーを感じる。引き続き、その目標がどれだけ大事なのかを言葉に。「クソー、だったら次はこれをやってやる!」といった具合に新たな目標が見つかることも。こういう動機が業界に新たな風を吹き込むことも。

・後悔、罪悪感、恥、自責感

〈悔しさ〉や〈絶望感〉は注意が出来事(結果)に向く。
その意味では、自分のしてきたことに不満はない。
一方、〈後悔〉〈罪悪感〉〈恥〉〈自責感〉の対象は「自分が何をしたか」。
過去の行動を振り返って、「あぁ、やってしまった……」「あのときにこうしていれば……」という気持ちに。
自分がベストを尽くしたとは思えていない=「自分がやったこと」が期待外れ。

後悔
反省悲しみ
期待外れを取り戻せない状況でも、「反省させる」パートが働く。取り戻せない悲しみと同時に、改善のアイデアが浮かぶ。
意識が過去に向いている。過去への未練を未来への学びに活かし現在の財産へと昇華。悲しみと反省を別々に扱う。

罪悪感
「自分は正しくない」「自分は過ちを犯した」という判断から。社会で決められている「正しさ」や「善悪」の判断基準。一度基準が自分の中に作られれば、誰からも罰を受けないときでも罪悪感は生まれる。


社会の常識や周囲からの期待が判断基準
この基準も自分の中に作られると、実際に周囲から疎外されるか関係なくなる。常識や周囲の期待に沿えなかったと自分で判断したとき、頭の中で「皆の仲間ではいられなくなってしまった」と心の距離が作られる。この寂しさが〈恥〉の感情の動き。
 

〈罪悪感〉も〈恥〉も基準が自分の中、自分で自分を「ダメだ」と判断。最終的には自分自身で判断をやめる必要がある。自分で自分を「ゆるす」。

自責感
後悔が解消されるときは、大切だったものに気づいて、もう一度前を向く。
自責感のパートがそれを許さない。罪悪感の奥にあった肯定的意図に気づいて、償うための新たな生き方へ移るときにも、「自責感を作り出す」パートは苦しみを負わせる。たびたび罪を指摘して苦しみを与え続ける。前へ進もうというエネルギーを「自責感を作り出す」パートが妨げ、長く続けば気力がなくなって鬱々とした状態に。

両方のパートを同じように受け入れる。対立が弱まって、自責感のほうも、後悔・罪悪感のほうも自然と小さくなる。

自責感のパートの気持ちを探っていくと「なんであんなことをしたんだ!」という怒りの奥から、「……本当なら今頃こうだったはずなのに……」という叶わなかった願いが見つかる。その願いが自分にとってどれぐらい大切だったのかを実感している。この切実さが、「将来、同じような場面で二度と過ちをくり返さないように忘れさせてはいけない!」という肯定的意図に繋がる。そして過ちを犯した自分の正しさを保てるように自分を責める。それによって自分の存在への安心感を取り戻して、身を守ろうとする。
自分を守って、安心できる土台を取り戻そうとしてくれている「自責感を作り出す」パートに感謝すること

自分を責めたい気持ちが沸いてきたら、苦しみを感じること。その苦しみは「自分」がしっかりと存在している証。償いのために何かをしたくなったら、行動する。人との関わりが「自分」の存在を実感させる。

・嫌悪感、軽蔑、敵意

嫌悪感
相手との距離をとろうとする心の動き

軽蔑
相手への期待を小さくしようとする心の動き

敵意
怒りのエネルギーを使う。「自分の大切なものを脅かす存在」として相手を捉え、自分とは別の集団の人に分類。
「相手に敵意を向けさせる」パートには、自分が大切にしている守りたいことを思い出させて、それを大切にする努力をさせようという肯定的意図がある。

対処
嫌悪感、軽蔑、敵意のいずれも、相手に対するイメージ(印象)が作り出している。NLPの〈ポジション・チェンジ〉が効果的。

わだかまりを発散してから、相手について気づいていなかった部分にも目を向けると、相手をよりニュートラルに捉えることができる。その結果、相手の印象が変わり、嫌悪感、軽蔑、敵意も減る。とくに「この人はこの人で大変なんだなぁ」と気の毒に思えると、相手を思いやる余裕が生まれる。

誰かを嫌ったり、軽蔑したり、憎んだりする自分を否定する必要はない。そうすることで自分の身を守り、自分の大切なものを実感している。ときとして敵意は大きな行動の原動力に。自分の大切なことを信じ、敵意を活かして何かを成し遂げる人もいる。一方で、嫌悪感、軽蔑、敵意は、相手に対して特別な気持ち=執着している状態。

・恐れ、心配、不安

おそれ、心配、不安の特徴は、感情の対象が未来にあるが、〈おそれ〉が未来の予測から作られるのに対して、〈恐怖〉は現在のこととして体験される感情。
心配のほうが、起きてほしくない結果になる可能性は低めに予測
一方〈不安〉は、〈おそれ〉〈心配〉とは違い、結果をハッキリとは予測せず、むしろ「何が起きるか分からない」ことが不安を生み出す。

どうやって今に意識を集中するかがポイント。〈おそれ〉と〈不安〉については、具体的な対策を考える。一方、〈不安〉は「何が起こるかわからないけれど、今までどおりではなくなるはずだ」という予測から。まずは「何が起きそうか」を知識として調べて、この先の展開をシミュレーション。どのような対策ができるかを考える。

未来の結果が気になって日常的なことに集中できないなら、望ましい結果を祈るのも一つの選択肢。未来を心配する状態から抜け出る効果はある。「どれだけうまくいって欲しいと願っているのか」「なぜ自分にはそれが大切なのか?」と意識すると、自分の気持ちに集中しながら祈ることができる。また、そこまで頑張ってきたことを丁寧に振り返れば、過去に意識を向けられて心配を弱めることもできる。〈おそれ〉や〈不安〉を乗り越えるために努力を続けてきた自分をねぎらう

すべてのパートは自分のために最善を尽くそうとしている。もし残念な結果になっても、パートはいろいろな方法で自分を立ち直らせようとする。自分の中のすべてのパートを信頼すること。

まとめ

・どんな期待外れがあったのか?
・何に意識が向いているか(感情の対象)?
・期待外れを取り戻そうとしているかどうか?

 この基準で感情を区別して、効果的な対応を選ぶ。

・怒りは発散する。
・悲しみは感じつくす。

・どちらが先でも、両方やれば安全。
・パートをいたわり、ねぎらう。
・期待の奥にあった肯定的意図(大切にしたいこと)をしみじみと味わう。



他者とのコミュニケーション

・期待している結果
・満たされる価値観
・期待から手段を切り離す

話す側の工夫
・話す目的を伝える

聞く側の工夫
・伝えたいことを汲み取る
 感情、期待から価値観を想像
・相手の意図に応える

ほとんどの人は自分の意図を自覚して気持ちを的確な言葉にして伝えられない。その場で思いついた言葉が反射的にパッと口を出る。聞く側が意図を汲みとれればコミュニケーションはスムーズになるが、そうでないと誤解が生まれる。

まずは自分自身の肯定的意図に気づけるようトレーニング。慣れてくると普段から肯定的意図が頭に浮かぶようになって、ほかの人の話を聞いているときにも「こんな言い方をするときって(自分なら)だいたい、こういう意図があるものだな」と想像が働きやすくなる。

相手からしてもらいたいこと、自分の身の回りで起こってほしい具体的な出来事を、「期待」として意識に上げる。

その結果で満たされる価値観は何か?
価値観を満たすための手段と、大切にしたい価値観とを切り分けて考える。

伝わってほしい〈考え〉の中で大事なのは意図
どんな価値観を満たそうとして話をするのか? そこが伝われば、何を目的とした会話なのかがハッキリするので、何を心がけて話を聞くかも絞りやすくなる。

伝わってほしい気持ちには、〈感情〉も含まれる
この感情が原動力で話をするので、感情を捉えられると「どうして話をしたいのか?」という理由が分かる。分かってほしい気持ちのうち、「意図(考え)」は、話をとおして満たしたい価値観(話をする目的)、「感情」は、話をしたくなった事情(原因)。
「感情」と「意図(考え)」の関係
 「~な事情があって(=過去)、
 ○○の感情があるから、
 △△という価値観を満たすために(=未来)、
 ……してもらいたい(=期待)」


感情、価値観(意図)、期待。これらを意識しながら会話をするのが、コミュニケーションのコツ。

多くの場合、相手は「どんなことがあったか」という事情を話す。それを通して分かってもらいたいのは、感情や意図。感情に共感してもらって、嫌な気分を解消したい。そのうえで、本人にとって大切な価値観を満たしたい。それこそが話しかけてきた理由。そこを伝えたいのに短くまとまっていないから、いろいろと事情を話す。
感情は相手の表情や、声のトーンから読み取る。大まかに〈怒り〉と〈悲しみ〉の方向を区別できるだけでも十分に効果的。相手の事情からも想像。早い段階で捉えると、あとの段階が楽。

心の中にはいくつものパートがあり感情や意図も一つではない。感情と期待の両方から価値観を汲みとって共通点を考える。その人がとくに大切にしようとしていることが見つかる。

関係を良いものにするには、相手の意図に応えるのが原則。期待に応えるのではない。相手がこちらに期待している行動は、あくまで相手の価値観を満たすための一例。
とくに相手が「こうしてほしい」と言葉にしたことは必ずしも最善ではない。むしろ相手自身も、本当に期待していることや満たしたい価値観に気づけていないことも多い。相手から言われたとおりにしたのに不満を買ってしまうこともあるが、相手が望んでいること(意図)を言葉にしていないから。

会話の意図
1 会話の目的のレベル
2 会話のプロセスのレベル

問題を解決するという会話の目的とは別のレベルで、「自分の気持ちを分かってもらって、承認されたい」という意図がある。会話のほとんどには承認を求めているところがあって、自分が大切な存在だということを確かめようとしている。

クレーム対応
「それは酷いね!」と怒りを代弁したり、「それは辛かったでしょう」と苦しみを察して言葉にしたりして、感情への共感を示すのが効果的。
「責任感があるんだね」「お客さんのことを大切に思っているんですね」「子供の将来を真剣に考えてくれているんだね」などと、価値観(何を大切にしようとしているか)を言葉にして伝えるのも良い。
そして、「大変だね」「頑張っていますね」と、ねぎらいの言葉で承認。悩みを解決したいかどうか(会話内容の目的)はその先の話。
「まずは怒りが自然に収まるまで丁寧に話を聞く」という目標であれば、クレームに対応する側の気持ちも楽になる。
商品やサービスそのものへの不満を聞いた場合には、「貴重なご意見をありがとうございました」と伝えるのも有効。
期待があったからこそ怒りが生まれ、まだ期待を失っていないからクレームを伝えてきた。
「大変ご迷惑をおかけしました。とてもお困りのことと思います。申し訳ございません」などと、お客様の気持ちが伝わっていることを表現するのは有効。

①感情を解消する
②気持ちが伝わったことを表現する
③対応を検討する

の順番

相手に伝える

正直に言葉にするのは自分の気持ち(感情と意図)で相手への攻撃や要求ではない。「君が悪いんだ!」「なんで分かってくれないのよ!」というのは相手に注意が集まる。自分の気持ちを間接的に表現したもの。そうではなくて、「私は傷ついた」「私の苦しさを分かってほしいと思っている」というのが〝正直〟な伝え方。

「うまく伝えられるようになりたい」という希望がある人の中には、「自分の思い通りに相手を変えたい」と考えている。「うまく伝われば、相手はこちらが望んだ通りにしてくれるはずだ」という考え。伝わることと、相手が変わってくれることは別物。このコミュニケーションの方法は、こうすれば必ず大丈夫というものではなく、ベストを尽くすための方法

1 人は気持ちを的確に言葉にしていない。
2 にもかかわらず誰もが「分かってもらいたい」と思っている。

この二点を前提。

分かってもらいたいのに、そもそも分かってもらいたいことを言葉にしていない。それで分かってもらうことができず、すれ違いを感じて、そしてお互いに嫌な気分を味わう。だったら少しでも分かり合いやすくなるように工夫をすること。

心を調和させる

複雑な悩みを解消
・気持ちをパートとして区別
・パートごとに感情と肯定的意図
・優先したい気持ち

気持ちを一通り自覚し、それぞれの肯定的意図を探る。感情を感じてから、「何を大切にしたいのか? どんな価値観を満たそうとしているのか?」。パートによる会議を想像。全員から丁寧に意見を聞いて、納得できるように方針を決める。

また「事情として避けられないこと」も区別しておく。仕方のないこととして受け入れる。置かれた状況とパートごとの気持ちを整理して、「どの気持ちを、どうやって大切にしたいか?」と考える。

望んでいなかったことは、すでに起きてしまっている。どれだけ「取り戻したい」と願っていても、一〇〇パーセント元通りにならない。だから未練が残り続ける。そこで役に立つのが〈あきらめる〉〈ゆるす〉〈手放す〉。
思い通りにならないことを受け入れて、あきらめる。ずっと心のどこかで気にして後ろを振り返り続けるのではなく、前を向いて進めるように。
〈あきらめる〉〈ゆるす〉〈手放す〉について、「あきらめようとする」「ゆるそうとする」「手放そうとする」ことと勘違いしやすい。

失われてしまった可能性の高い大切なことを「あきらめようとする」ことや、怒りや不満は残っているけれど「ゆるそうとする」のも同様。どんなに抑えても、心の奥でパートが働き続けている
それに対して「手放せた」状態では、そもそも何も気にならなくなっている。意識に上がらない。どっちでもいい状態。

ポイントは、パートの働きを完了させること。
パートの気持ちを丁寧に実感して、パートに愛おしさを向ける。未練として残っていた気持ちを堂々と感じつくし、受け入れるのと同時に、前に進みたい気持ちもまた受け入れ大事なものとして感じる。
いずれも大事なことを忘れたくない意図を含むが、「忘れない」と「常に覚えているように意識の片隅で気にかけておく」とは違う。思い出せる限り、忘れてはいない。いつ思い出してもいいが、いつも覚えている必要はないことを教える。
心の中の思い出写真をアルバムのような形で整理し、一箇所に集め、大切さや愛情を思い出しやすくする。

①ゆるす許可を出す
・怒りは行動の原動力
・怒りで大切さを守っている
・怒りで忘れないようにしている

ゆるすのは相手のためではなく、自分のため。ゆるしても原動力は失われないという見方を加える。「怒りを手放すことで、より多くのエネルギーを大事なことのために使える」
「同じことを防ぐ方法としては、怒りを向けるのが最善とは限らない。こちらの怒りが伝わっているかも分からないのだから、落ち着いて丁寧に自分の気持ちと願いを伝えてもいい。相手が何をするかは私がコントロールできることではない。同じことが起きないように、私は私のできることに全力を注げば充分。相手に過度な要求をする必要はもうない」

②怒りを発散する
③相手の気持ちを汲みとる
④自分のパートと相手を思いやる


相手に対して怒りを向けていたパート(=傷つけられたパート、台無しにされたことを怒っていたパート)を、自分の体から離れた場所にイメージ。そして自分のパートと相手とが向き合っている様子を思い浮かべ、少し離れたところから眺め、それぞれに思いやりの気持ちを向ける。

⑤自分のパートと相手を慈しむ
頭上に〈無条件の愛の光〉をイメージし、自分のパートと相手を眺めながら、二人に光が降り注いでいる様子をイメージ。

⑥ゆるさないのを止める
相手が光を浴びているのを眺めながら、相手が幸せになることを祈る
これで相手を責めていたパートが、ようやく役割を終え心の奥に帰っていく。

自分をゆるす
どれだけ相手が自分の罪をゆるしてくれていても、自分だけが罪の意識を手放せない。どれだけ皆が自分の失敗を気にしないでいてくれても、自分だけが恥を手放せない。こうした苦しみを解消するには〈自分をゆるす〉こと。

①ゆるす許可を出す
・ゆるさないことで忘れないようにしている
・ゆるさないことで償いとして罰を受ける
・ゆるさないことで苦しみに共感する

罰を受けることだけが反省なわけではない。過ちから学び、挽回するための行動をしていくほうが償いになることも。罰を受けながら何も償わないことに比べたら、前を向いて生きていくほうがずっと辛いこともある。それこそが自分の過ちと正面から向き合うこと。

②パートの気持ちを感じ取る
③自分のパートを思いやる
④すべてのパートを慈しむ
⑤ゆるさないのをやめる
⑥ゆるされながら前に進む意志を固める


無理やり「ゆるそう」としないこと。ゆるしたくない気持ちがあるなら、その気持ちも含めてゆるす。ゆるして手放したからといって大切な思いが消えるわけではない。大切なものは大切なまま。


調和を満喫する

すべての行動や感情的な反応に肯定的意図。心のどこか意識に上がりにくいところでは、その意図が満たされる喜びを願っている。

〝良いこと〟として学んできた喜びだけでなく、心の中のパートは、もっと他の喜びも知っている。パートの肯定的意図に気づければ、それだけ多くの喜びを感じられる。習慣に頼ることなく、その瞬間に最もふさわしい喜びを選べる。「今日の昼ごはんは何にしようかな?」というぐらいの気軽さで、「今は怒鳴っておくか、それとも抑えておくかな?」、「今は部屋を散らかしたままにしようかな、それとも片づけようかな?」「今は皆に気を遣っておくかな、それとも好き勝手にしておこうかな?」のように選べる。

自分のパートの気持ちに関心を向ける自分を好きになること
パートに気づいていれば、自分の一部であるパートが満たされて、同時に自分で自分を好きになることにもなる。

自分が苦しんでいるのではなく苦しんでいるのは、自分の中のほんのいくつかのパート。そのときでも、他の大部分のパートは喜びを願って働いている。「私」は、その喜びにも苦しみにも気づき、パートの苦しみに共感し、思いやりを向けられる。

問題と悩み
問題〉は、どうすれば変えられるか?
悩み〉は、どのように問題へ向き合えばいいか?
悩みが解消されても問題解決の努力は続く。効果的な解決策を検討。悩みの解消とは別に問題解決の工夫もできる。むしろ悩みを解消してからが問題解決の本番。