【タイトル】 こころのウィルス
【著者】 ドナルド ロフランド
 

 

【ページ数】 512

【読むきっかけ】
NLPマスタープラクティショナーコースでの課題図書だったため。

NLPの包括的な知識を得るため。


【概要】 自己否定的な思考パターンをこころのウィルスとして定義し、その原因および対処法について述べる。
 

【対象】 NLPについて前提知識がない人でも十分に読める。自己の内面の葛藤の解決や、失敗への恐れ、先延ばし、愛情の問題等、すべての人に役立つ内容が含まれている。
 

【評価:★5段階で】
 難易度:★★
 分かりやすさ:★★★★★
 ユニークさ:★★★
 お勧め度:★★★★★

【要約】

自分の考え方に取りついてしまったマイナスの思考様式をウィルスにたとえ、考え方の歪みから自由になり、思考と調和(コヒーレント)していくことを目指す。

ウィルスを、

 

1. 引き金(トリガー)

2. 思い込み

3. 葛藤

4. 殺人(キラー)

 

に分類し、それぞれの特徴・動機を知った上で、NLPのテクニックを適用していく。

こころの治療の章では、ウツ、アレルギー、ガンと、精神面だけではなく、病気に対しても有効な方法、考え方を提供する。

さらには、仕事に置いて先延ばしや、失敗・成功への恐れの克服、恋愛における問題、さらに思い通りの人生を生きるための方法、ヴィジョンの探求について述べられている。
 

【マインドマップ】
 

 

【評価できる点】

まず言えるのは分厚い本でありながら、非常に読みやすい。実際、私も課題図書として指定されたため購入したものの、その分厚さからしばらく放置していた。が、読み始めると、読みやすい文章に加え、興味深く読者を内容に引き込んでくれるため、一気に読み進めることができた。読みやすい理由は、専門用語、抽象用語を極力用いず、使う場合も、わかりやすく説明している点がまず挙げられる。

 

ほぼ全章にネステッドループ話法が用いられており、読み進めるための工夫が用いられている。
これだけの本を書かれているのだから、当然心理学者か専門のセラピスト、トレーナーだろうと思ったが、この著者は物理学教授という異色の経歴の持ち主。ところどころでネステッドループで物理学的な話も出てくるが、内容については特に物理学と融合させるような試みはない。


非常に読みやすいものの、この内容を吸収するのは時間がかかる。さっと読んで終わりにしてしまうには勿体なすぎるほど、濃厚な内容が含まれている。中に、エクササイズが多く含まれており、すべて有効なもので、実際に行い、マスターするのも時間がかかる。自己探求など自分でできるワークも多い。


この本がカバーしている範囲は非常に広く、病気、仕事や人間関係(恋愛)への応用もある。これらは人間にとって主要なトピックだし、生きていくうえでのハンドブックにも使える。病気の章では、体の重要性、つまり運動や食べ物を重視しており、精神面だけに偏っているわけではない。


NLPの入門書となりうるかという点で見ると、NLPの考え方やテクニックについて随所に触れられているものの、一部のみが取り上げられているので、NLPの理解を深めることになるものの全体像を理解するというところには至らない。

多く使われているNLPのテクニックとしては、


・アンカリング
・ストラテジー
・マッピングアクロス
・アレルギー・フォビア
・悪習慣の改善(6ステップのリフレーミング)、パーツインテグレーション(ビジュアル・スカッシュ、視覚的統合)
・価値観
・信念

が挙げられる。
直接含まれていないものとしては、


・ミルトンモデル
・メタモデル
・リフレーミング
・スイッシュ
・ポジションチェンジ

・知覚位置
・ニューロロジカルレベル

といったところだろうか。
また、セラピー中心なので、コーチング的、目標達成的な要素は少ない。

愛情の章以外は、すべて自分の内面の解決に焦点が向けられている。NLPでは、コミュニケーションの改善も大きなテーマとしてあげらえるが、本書では、愛情の章においてのみ、有効なコミュニケーションについて述べられている。ここは恋人だけでなく、あらゆる対人関係で役立つスキルだ。この部分は、自分がコミュニケーションのバイブルとして考えている、バーバード流の交渉術に書かれている内容と共通する。

【ポイント(特色・この本のユニークな点)】

心理的問題を、

・引き金
・思い込み
・葛藤

・上記の組み合わせ
 

に分類する点は画期的で、それ以外はないだろうかと思ったものの非常にいい分類方法だと実感している。

以下、自分の考え。


心理的な問題、つまり心の状態が不調和になるのは、どういうことか。

 

例えば、強い嫌悪感・恐怖症などは、出来事の想起や想像、言葉などがトリガーとなって引き起こされる。そこには理屈はなかったりする。そこで言葉や意志の力によって克服しようとしても無意識レベルで作動しているため、効果はない。NLPでは、この引き金と症状との関連を、アンカー、内部表象の操作、ディソシエイト、あるいは行動療法で言うところの脱感作といった手法を用いて切り離し、引き金が作動しないようにする。

 

一方、それとは別のレベルで、思い込み(=ビリーフ、信念)が作動している。この信念は言葉として表現できるが、この思い込みは本人がおかしいと分かっていたとしても簡単には変えられない。強く作用して、行動にブレーキをかけ、生きていくうえでの制限として働く。思い込みには、明確な動機があるため、そこにアプローチし、制限となる信念の力を弱めていく。さらに信念より奥にある価値観に踏み込み、価値観を変えていくことで関連する信念を変えていく。

葛藤は、自分の中にある複数の思いがぶつかり合って、それ自体で消耗し、前に進めなくさせてしまう。対処としては思い込み同様に、それぞれのプラスの動機を探っていく。思い込みの一種と言えなくもないが、症状としては厄介なので別扱いにしたのだろう。引き金も思い込みも、こうありたいと思う自分との葛藤と言えなくもない。

【自分が得たもの】
先延ばしへの対応法など、役立つ部分は多い。特にアンカーについては、これまで十分に活用していなかったので、使ってみたい。

プラスの逆アンカーの設定で、誰かに否定されたり拒絶されたときに、逆に自信と高揚感が湧いてくる、なんていうのは興味深い。


【引用】

 

以下、自分にとって印象的だった部分の引用。何度も繰り返して読みたい(装飾は私自身が付けたもの)。

 

p38
自分の求めている心理状態にいたるための最も手っ取り早い方法のひとつは、そのときの自分の生理を模倣して、「あたかも」その状態を経験しているように振舞ってみることだ。

p42
多くの人々は暗黙のうちに、「自分以外の人間も、自分と同じ内的表象を持っている」と思い込んでいる。このことが、現実にほかの人々と関係を深めるときの大きな障害となるのである。

p52
「自分の最大の敵は、無意識に自分の成功を妨げるように振舞ってしまう自分自身だ」

p143
回避したい価値に動機づけられた人は、「自分が避けたいこと」自体に囚われてしまいがちだ。別の言い方をすれば、「前に進むべきときに、後ろを気にしすぎるようになる」ということだ。

p156
「回避したい価値」による動機づけには、当の本人がつねに「太っていること」や「ひ弱なこと」を意識させられる、という問題がある。しかもダイエットやエクササイズがうまく行くと、自分はだんだん肥満にも貧弱にも見えなくなるから、ダイエットやエクササイズを続ける動機も次第に薄れてしまう。逆に「スリムになること」や「健康になること」などの「到達したい価値」を動機にすれば、自分が目標に近づくほど、やる気は高まるはずだ。

p153
「私は本当のことを知っている」という信念や思い込みは、「今・ここ」に広がる無限の解釈可能性のほんの一部を切り出したものにすぎない。

p178
あなたも自問してほしい。
「信念や価値観の持ちようによっては、意識的な努力をせずとも自分が望む通りの人生が開けていくとしたら、これからの人生はどうなるだろう?」

p192
内的葛藤の解消に必要なものは、すべて自分のなかに備わっている。あとはそれを見つけるだけだ。

p309
「コインの表」なるものが「コインの裏」と分かれて単体として存在しているわけではないことを忘れがちだ。コインの表と裏は、「一度にコインの片面しか見ることができない」という人間の認知能力の制約から生まれたものでしかなく、コイン自体は表でも裏でもない。
...
葛藤ウイルスを生む二つの価値の対立も、じつは幻想でしかない。どちらの価値も始源の統一状態から発し、一つの全体ので別々の面となっているだけなのだ。
 

p222

暴力やギャンブル、セックスなどの引き金が(誤って)興奮・スリル・躍動感・幸福感などの精神状態に結び付けられ、その精神状態への依存と嗜好を生むのが「反社会的ウィルス」である。だがその実態は、全身から分泌される神経物質への身体的依存なのだ。この精神状態自体はたしかに価値あるものだが、自己破壊的でネガティブな引き金によってしかその状態にいたれないのでは意味がない。

p224
自分の精神状態をコントロールする建設的な方法は、「今・ここ」を大切にする感性を鍛えることだ。...
チョプラ博士は、私たちが「身体感覚への気づき」を獲得するだけで、「今・ここ」の感覚を研ぎ澄ますことができると言う。そうすれば、人が快い状態にあるときは身体が自然に私たちの意識を「今」に向けさせてその経験を満喫させてくれるし、逆に不快で苦痛な状態に陥っているときでも、全身でその感覚にしっかり向き合えば、脳からは苦痛を緩和するためのエンドルフィンと神経伝達物質が分泌されるようになる。だが私たちのほとんどは、体験している精神状態にきちんと向き合わずに、自分にダメージを与えるような方法でその状態から逃れようとするのである。

 

p245

過去に似たような状況に直面しても無事にやり過ごせたという経験が一度でもあるなら、(少なくとも無意識レベルでは)すでにその恐怖感の解消法を知っているということだ。

一度でも何かに集中して積極的にやり遂げた経験があるなら、彼の無意識は先延ばしの克服法を理解している。彼はたんに、まだそれを実行に移していないだけなのだ。

 

p245

セラピストの仕事は問題を解決することではなく、クライアントが持ち合わせている材料を利用して自分で問題を解決できるよう、相手を導くことである。私にとって<こころのウイルス>は、人生という紐にできたもつれや結び目のようなものだ。そして、この結び目についてはクライアントこそが最高の専門家だということを忘れてはならない。クライアントが作った結び目のほどき方は、それを作った本人が一番よく知っているのだから。

p251
直観を研ぎ澄ますには、自分の「内臓感覚」を信じることも重要だ。あなたが、むずかしい決断に直面し、二者択一を迫られたときには、ただ自分の身体の声に耳を傾けてみよう。あなたがその選択に対して、どっかで不安感や心細さを感じているなら、その感情は身体的な不快感として現れるはずだ。生理状態は、自分の感情を正直に反映する。ただし、...それは「その選択肢を選ぶな」という意味ではない。それはたんに「あなたの内面にはその選択に不安を抱いている部分があるから、その葛藤を調停しなければならない」ということだ。

p259

人間の頭脳は、ある面ではコンピュータに似ている。いったん投げかけられた質問には、それがたとえ意味のない質問であっても、なんらかの解答を返すように設計されているのである。「なぜ」という言葉で始まる自問自答のほとんどは、本人のやる気や活力を奪ってしまう。この質問には合理的な解答は存在しないが、脳は記憶のなかからその答えを探しつづけ、やがては「それは、あなたが、いつもヘマばかりしているからだ」という結論に至る。

「なぜ私はあんなにバカだったんだろう?」→ネガティブな前提条件が含まれていることに注意しよう。「自分はバカだ」という前提を受け入れない限り、これらの質問に答えることはできないのだ。

 

・過去の失敗を再構築する

「私はその失敗からどんなことを学び、今の自分の糧にしているだろうか?」

→自分の失敗にとらわれてしまうのに対して、自分の力を引き出してくれる。


p332
トニー・ロビンス『内なる巨人の目覚め』


怒り・・・あなた自身や、ほかのだれか、あるいは周囲の状況などが、あなたの抱く「物事はこうあるべきだ」というルールや常識に反した。
→「世の中のすべてが、あなたの常識通りに運ぶとは限らない」ということを、よく肝に銘じておこう。

失望・・・あなたの予想や目標が実現しなかった、あるいは実現の見込みがなくなった。
柔軟性を発揮して、自分の目標や予想を立て直すべきときだ。

恐怖・・・ちょうど黄色の信号のように、何かが起こりつつあることに対して注意を促すサイン。
即座に行動を起こせるように心構えをしよう。

ストレス・・・あなたが実現すると信じる予想や目標が、いまだに実現していない。
→その目標を達成するために新たな手段を検討するか、その目標が現実的かどうかを再確認しよう。

罪悪感・恥ずかしさ・・・あなたは、自分の周囲のルールに違反した。
それが現実的で有益なルールであることを確認したうえで、同じ違反を繰り返さない方法を考えよう。

傷つき・・・誰かがあなたのルールに違反し、あなたはそのルール違反を「損失」(たとえば、あなたに対する愛情・尊敬・感謝などの損失)に結びつけた。
→もちろん、自分と相手が同じルールを共有しているとは限らないし、本当は何も「失われ」てはいないかもしれない。

無力感・・・あなたは、自分の手に余ることを一気にやろうとしている。
→自分のやるべきことの優先順位を考え直し、一番重要なものに集中しよう。自分のやるべきことを細かく分ければ、それぞれを一つずつ解決できる。

p334

ネガティブな感情が浮かんできたときには、好奇心を持って自分自身に質問をしてみよう。

1「私が今感じているのは、本当に~(怒り・傷つき・悲しみなど)だろうか?まだ気づいていない、もっと重要な感情があるのではないだろうか?」

2「この感情の裏にあるメッセージはなんだろう?無意識は、この感情で私に何を伝えようとしているんだろう?」

3「この感情は、この状況にふさわしい内容だろうか?」

名前も知らないドライバーが自分に侮辱のポーズをしたからと行って、それを暴力沙汰にするのは適切な対応とはいえないだろう。一方、誰かがあなたに対して露骨に無礼な態度を取ってきたなら、あなたも普段よりはっきりと自分の怒りを表現するべきかもしれない。


p350
成功する人間は、...思い描くのは、現在から目標へたどり着くまでの道筋ではなく、その目標を達成できたらどうなるか、自分はどんな気分になるか、といったことだ。彼らはこうした感覚を動機にして、仕事に取り掛かるのである。

p362

あなたならどうするか、自分自身に聞いてみなさい。

もしあなたが知っていれば、あなたは失敗しようがない。

p370
上手に失敗するコツ
トニー・ロビンス「たとえ試合が思い通りに運んでいないにしても、攻撃側に立っているのは自分だ。攻撃を続けている限り、試合が終わることはないんだ」
ディーパック・チョプラ「自分の思うように物事が進まないように思えるときでも、それは今はまだ見えないもっと大きな絵の一部分として、起こるべくして起こった出来事なのだと信じていればいい。今は絵を見る場所が近すぎるだけだ。時間が経てば、もっと後ろに下がって絵の全体を見通すことができるようになるだろう」

p378
自分が認められることもなく、肯定的に評価されることもない状況では、成功など不可能に等しい。それでも成功者になろうとするのは、まるで底なしの穴を埋めようとするようなものだろう。しかし、自分の頭の中にこういう上司を飼っている人は、案外多いのだ。

p426
「ちゃんと分別のある人間なら、誰でも自分と同じように考えるはずだ」と思い込みがちだ。そして、自分と対立する恋人の考えは、相手がこちらの主張の普遍的正当性を認めようとしないがゆえの奇妙な例外として片付けられてしまう。ここには「一方が正しければ、もう片方は間違っているはずだ」という隠れた前提が存在する。この前提があるために、もし相手の主張が正しいと認めてしまえば、自分が現実をとらえそこなっているということになってしまうのだ。

p431
相手への要求を書き出すフォーマット
「~(自分のルールに合った行動)をしてほしい。
なぜなら、~(自分の感情的な反応)だし、
自分は~(苛立ちを覚える状況や場所)のときにも、
君に~(自分の重視する価値)を感じたいから」
 

p491

人生の指針

1. 君は、これからたくさんの授業を受けるところだ。君は、<地球上での生活>という学校に入学した。ここで出会う誰もが、そして起こる物事すべてが、君の先生だ。

2. この学校には失敗はありえない。あるのは学ぶことだけだ。

「失敗は成功にいたるための一過程でしかない」

3. 君が学び終えるまで、それぞれの授業は終わらない。君がひとつのことを学ぶまで、授業はさまざまな形をとって、何度でも繰り返されるだろう。君がここにいるということは、まだ学ぶべきことが残っているということだ。

4. 君が簡単な授業から学ぶべきことを学ばなければ、授業はどんどん厳しくなっていくだろう。君の味わう苦痛は、宇宙が君の関心を惹くための手段なのだ。

5. 君が授業から何かを学んだら、君の行動の仕方も変わるはずだ。行動は、知識を知恵に変える唯一の方法だ。

6. 「ここ」より「あそこ」のほうがいい場所だ、ということはない。「あそこ」が「ここ」になったときには、また別の「あそこ」が現れて、それが「ここ」よりいい場所に見えるだけだ。

7. この学校には善悪の区別は存在しない。あるのは原因と結果だけだ。宇宙は私たちを裁かない。君にバランスを取り、学ぶ機会を与えてくれるだけだ。

8. 君の人生は君次第だ。人生はキャンバスだ。そこに絵を描くのは君自身だ。

9. 答えは君のこころのなかにある。君がすべきことは、ただ見て、聞き、信じることだけだ。

10. 君は、以上のことすべてを忘れがちだ。