過去の話ですが、ふと思い出したので、書いてみました。

ではどうぞ。

 

    

これは、私の会社訪問の思い出である。

でも一般的に言われている「会社訪問」とはちょっと意味が違うかもしれない。
何社も会社まわったわけじゃないし。
まだ本格的な不況に突入してない頃の話だし。
でも私としてはかなり印象に残る体験であった。

私の通っていた学校は、学校推薦で就職先が決まるのが普通だった。
理系はどこの学校も多分そうであろう。

私も学校に置いてあったファイルからある会社を選び、就職担当の先生に、
「ここにする。」
と言っただけで内定をもらった。

私は1度もその会社に足を運ぶことなく、簡単に将来が決まってしまったのだ。
こんないい加減でいいのかとも思うが、就職活動で苦労しなくて済んだのでいいのだろう。

いくら内定はもらったといっても、形式上、面接や適性試験は実施されることになっていた。


初夏のある日、ついに適性試験を受ける日が訪れた。
私は今まで茶色かった髪を黒く染め、紺のリクルートスーツを着て、その会社に向かった。

会社には今まで1度も行ったことはなかったが、地図によると駅からまっすぐのわかりやすい場所にあった。
最寄り駅に着いた私は、会社に向かって歩き出した。
将来、この道を通って毎日通勤するんだなあと思うと感無量であった。

しばらく歩き、そろそろ着いてもいいはずなのに、目的の会社になかなか着かない。
おかしいなあと思い、地図を確認すると…

道、間違えてる!!

私としたことが、全く違う道を歩いてるじゃないか。
今から駅に戻る時間はない。
焦った私は、とりあえず会社があると思われる方向に向かって走り出した。
こんなピンチな状況で、誰かに道を訊きたいところだが、人っ子1人見つからない。

マジでマジでマジでやばい。
いったいどうすればいいのだ!

パニック状態に陥りながら、無我夢中で走っていると、ようやく1人のおじさんを発見。
「すみません、A社(探している会社)はどこにありますか?(早口)」
そのときの私は、かなり切羽詰まった表情をしていたと思う。
それなのにそのおじさん、イライラするほどのんびり屋であった。
「ここを、まっすぐ行って~、次に左に曲がって~…」
「わかりました。どうもありがとうございました。(早口)」
私はおじさんの答えを最後まで聞かずに、示す方向に向かってものすごい勢いで走り出した。
ここで歩いては、本当に遅刻してしまう。
それに、やっぱり指定された時刻よりも早めに適性試験会場に着いていたいものである。

しばらく走りつづけ、そろそろ着いてもいいはずなのに、全然目的の会社にたどり着かない。

おじさんの言う通り来てるのに、何で着かないんだよ~!
もう泣きそう。

と思ったところで、1人のおばさんを発見。
私はおばさんに疾風のように駆け寄ると尋ねた。
「すみません、A社はどこですか?(早口)」
「A社だったら、向かってる方向とは逆だけど…。今来た道をUターンして、右に曲がる道があるから、そこを曲がればすぐわかりますよ。」

私何やってるんだよ!!!

気持ちばかり焦って周囲を確認せず、行きすぎてしまったようである。
さっきおじさんに道を訊いた際、最後までおじさんの話を聞かなかったからこういう目にあうのだ。
こうしているうちにも、会社が指定した集合時間は刻一刻と迫っている。

私はおばさんに礼を言うと、全速力で走り出した。
慣れないパンプスで走るのは辛いものがあったが、そんなことを言ってる場合ではない。

そして私は、やっと会社にたどり着いた。
時間を見ると、集合時間ジャストであった。
なんとか遅刻は免れたようであった。

私は会社に入り、受付のお姉さんに何事もなかった風を装い話しかけた。
「あのー、内定をもらった者ですが、適性検査を受けに…」
するとお姉さんの顔色が変わり、今まで座っていたイスから急に立ちあがった。
そしてすごいスピードで私の胸元に目印のバッジをつけると、
「こっちです。」
と言いながら、猛ダッシュで廊下を走り出した。
お姉さんも、まさかこんな時間ギリギリに来るバカなどいるとは思ってなかったのだろう。
私以上に慌てふためいているのがありありとわかった。

廊下を走り、お姉さんに案内された部屋に入ったときには、もう集合時間は過ぎてしまっていた。
部屋の中には、もうとっくに到着していた人々が涼しい顔で座っていた。

その中に、遅刻して、息をはあはあ切らし、ふらふらになりながら登場した私。
何で私はいつもこうなのだろう。
実はそのとき受けた適性試験がどんなものだったのか、よく覚えてない。
でも、それは試験といっても、性格判断のようなものだったと思う。
頭の良し悪しとは関係ないものでよかった。
適性試験の頃には、もう私力尽きてたしな。

私はなんとか適性試験を終え、あとは帰るだけとなった。

乗換駅の池袋に着いて、電車を降りた私は、ある人(男)からいきなり話しかけられた。

ある人 「さっき一緒でしたよね。これから暇ですか?」

何だこいつは?

「さっき一緒」ということは、こいつもあの会社で内定もらってて、適性試験受けたのか?
どんな奴らがいたかなんて、全然覚えてない。

私 「暇と言えば暇ですけど…。」

ある人 「俺、池袋初めてなんですよ。サンシャイン展望台行ってみたいなあと思ってるんですが、一緒に行きませんか?」

サンシャインなんか別に行きたくねーよ。

でも、将来こいつと同じ会社で働くことになるんだよなあ。
今冷たくして、あとで会社で意地悪されたら嫌だしなあ。
同僚となる人と親交を深めておくのも悪くないかも…。
暇なんだし、ちょっとくらいなら…

そう思った私は、
「別にいいですけど…。」
とつい答えてしまった。

まさかこいつと2人きりじゃ…と思った私の不安は的中し、私は初対面の男と2人でサンシャイン展望台までいくハメになった。

これじゃまるでデートだぜ。
なんとかしてくれー!

その男がかっこよければ、私はすてきな出会いに大喜びだっただろう。

でもそいつはよく言えば真面目、悪く言えばオシャレに関心がないダサ男くんであった。

リクルートスーツを着ていても、普段のファッションセンスが見抜かれてしまうほどの着こなしとヘアスタイルであったのだ。
そんなダサい男と一緒に歩くのは嫌だったが、それを顔に出しては失礼になるので、私はそれを悟られないように細心の注意を払った。

そしてようやくサンシャインに到着。
展望台のチケット売り場で、そいつがチケットを購入した。

ところが
「展望台1枚。」
と言っているではないか。

じゃあ私は自分の分、自分で買えってことかよ!
何でこんなやつと展望台行くのに、自分の金遣わなくちゃならないんだよ!
すっかり頭に血が上った私は、その場で帰りたかったが、そいつがすでにチケットを購入してしまったため、なんとか踏みとどまった。

心の中で地団太を踏みながら、私も展望台のチケットを購入。
それから、私とそいつはエレベーターに乗りこみ、60階にある展望台に到着した。
その頃には、私の不機嫌度はピークに達しており、そいつの言葉に対してかなり冷たい態度を取っていたと思う。

「いい景色だなあ。俺のうち見えるかなあ。」
私がムカついているにもかかわらず、そいつはご機嫌であった。

池袋、初めてだって言ってたやつのうちが、池袋のそばの訳ねーだろ!見えるか!
私は心の中で暴言を吐きながら、
「見えるんですか?」
と冷たい反応を示した。
でも、なぜかそいつは上機嫌のままであった。

その後そいつとは早々に別れ、帰途についた。
会社行ったときにそいつに会ったら嫌だなあと思っていたが、もうそいつに出会うことはなかった。
私はそいつの顔を忘れてしまったので、そいつがその会社に行くのをやめたのか、もっとかわいい子を見つけて私を無視していたのかは不明である。

それにしても、そのときの展望台代、もったいなかった。
最初にはっきり断っておけばよかった。
……と、今だに悔しがる私であった。

ところで後半、会社訪問と関係ない思い出になってた(汗)

 

 

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