これは、今となっては遠い昔、私が大学生だった頃の話である。
 


私は仲良し女友達4人でハワイを訪れていた。
1日中、海、買い物三昧で、連日のように夜12時頃まで遊びほうけていたバカ4人組。
その友人の中の1人は、後にクラスで2番という好成績で学校を卒業、海外留学も体験し、今では英語ペラペラの才媛であるが、その頃はまだ私と同じレベルであった。

あるとき、ジューススタンドでフレッシュな果物ジュースを飲むことになった。
友人の1人はレモネードを飲むことにしたのだが、こともあろうにその友人、
「レモネード。」
と何度注文しても店員に通じない。
「レモネード!レモネード!!!」
と何度も連呼する友人の姿はまぬけそのものであった。
それでもその友人、身振り手振りも加え、やっとのことでレモネードを手に入れた。
私はそのとき何ジュースを頼んだかすっかり忘れてしまったが、店員には1発で通じたものだ。
私は、レモネードごときが通じない非国際的発音の友人を、このネタで後々までバカにしてやろうとたくらんでいた。
その一方で、レモネードを頼まなくて本当によかったと胸をなでおろしたのだった。

でも、そのときはまだ「レモネード」などとは比べ物にならないほどの悲劇が、自分の身にふりかかるとは夢にも思っていない私であった。

ある日、ショッピングの最中に、私は急に便意をもよおした。
それも生半可な便意ではない。
一刻を争うかなりの強敵であった。
思い起こせばこの旅行中、友人達が
「海外では生水は飲まない方がいいよね。」
と話していたにもかかわらず、ちょっとくらい平気だぜと思い、歯磨き中に水道の水を飲んでしまっていたのだ。
「くっそー、その水が…。」
と後悔しても後の祭。
私は友人達に
「ちょっとトイレに行ってくる。」
と言い残し、迫り来る強烈な便意と戦いながら、ものすごいスピードでトイレへと走って行ったのだった。

やっとたどり着いたトイレはお世辞にもきれいと呼べないものであったが、そんなこと気にしている場合ではない。
もう私の下痢ベンは一瞬の躊躇も許されない状況であった。
私は個室に入ると、速攻でパンツをずり下ろし、開放を今か今かと待ちわびていた下痢ベンを思いっきりひり出した。
「ああ、助かった…。」
安堵の表情を浮かべ、個室を出たところ…
友人達が私を心配してここまでやってきているではないか。

さっき、トイレに行ってくると言った私はそんなに切羽詰まった顔をしていたのか?
友人達に、あの下痢ベンをひり出す際の不快極まりない大音響を聞かせた挙句、この鼻が曲がりそうな大悪臭までも嗅がせることになろうとは…。
「大丈夫?」
そう言う友人の顔がとても冷ややかであったことは言うまでもない。

その日は、私達4人がずっと楽しみにしていた水上ジェットスキーをする日であった。
まず海岸から離れたところに設置されている人口の浮島まで船で行き、そこからジェットスキーに乗ることになっていた。
浮島に着くと外人のインストラクターから説明を受け、ようやく私達の順番が回ってきた。
胸ワクワクとはまさにこのことであろう。

実際乗ってみると、ジェットスキーの操作は思いのほか簡単で、私でもなんなく操縦することができた。
コースは、海上に浮かんでいる2つの旗のまわりをグルグル回るというものであった。
 

青い海、青い空、そして華麗に波に乗る私。
もう気分はサイコー!
……と完全にハイテンションであった私に、そのとき信じられないような悲劇が。
 

なんと私の乗るジェットスキー、壊れて動かなくなってしまったのである。
ウ・ソ・だ・ろー!
私の様子がおかしいことに気付いた友人達が続々と私の元へ駆けつけてくれた。
でも私のジェットスキー、どこをどういじってもウンともスンとも言わない。
インストラクターに来てもらおうということになり、インストラクターの待機する浮島に目をやると、ちょうど運悪く次の人が船で到着したところであった。
 

肝心のインストラクターは船からの乗り降りに没頭しており、こちらの状況は全く気付いてない様子。
ところが、そんなピンチな状況にもかかわらず、私を心配してそばにいたはずの友人達、1人、2人、3人と(みんなかよ!)離れて行ってしまった。
私はジェットスキーに乗ったまま、海上に1人ポツンと取り残されてしまったのだ。
実は波が穏やかなので気付かなかったが、私のジェットスキーは少しずつ潮に流されているようである。
頼みの友人達はというと、もう私のことなんてすっかり忘れた様子でジェットスキーをエンジョイしている。
 

「オーイ!」
と手を振ると一応手を振り返してくれるが、みんな思いっきり笑顔だ。
もう私のこの状況を心から楽しんでいるとしか思えない。
そうしているうちにも、私はどんどん流されて、みんなと遠ざかっていく。
なんでインストラクターは私を助けに来てくれないのだろう?

友人達は私のことをインストラクターに連絡してくれたのだろうか?
…と不安がよぎったそのとき、
ジェットスキーに乗った2人の外国人男性が私の方へ向かってきてくれた。
助かったあ、と思ったのもつかの間、彼らは私の壊れたジェットスキーのすぐ脇を通りぬけると、Uターンしてみんなのいる方へ帰っていってしまった。

あっけに取られた私であったが、思い出した。
奴らは私達と一緒にジェットスキーを楽しんでいた、ただの観光客じゃねーか。
じゃあ遭難した私を見に来たヤジ馬か?
そんな間近まで見に来んじゃねーよ!
その頃には、友人達の姿が目視で1cmくらいになるほど私は流されていた。
ああ、もうシャレにならなくなるかも…。
と思っていると、ようやくインストラクターがモーターボートでこちらに向かってくるのが見えた。(おせーんだよ!!!)

インストラクターは笑顔で
「このまま流されて日本に帰る気だったの?」
と流暢な日本語で(外人のくせに…。)言ってやがる。
私はインストラクターに向かって
「いや~ん、そんなことないですよう。」
とテヘッと笑って言ったのだった。
一応女子大生だったからな。
もし今の私が同じことをして見せたら、そのインストラクター、あまりの気持ち悪さに間違いなく気絶してるな。

かくして私は、遭難事故(?)から無事救助されたのだった。
でもせっかくの旅行なんだから、これくらいのスリリングな体験も、旅にピリッとスパイスを加えるおいしい隠し味になると思わない?(思わない。)

その後、ハワイ旅行から10年近く経った今日においても、私はジェットスキーで遭難した女として友人達の間で語り継がれている。
そして、伝説になる―――。 のか?
 

 

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