昔の話題、というか、エッセイです。
田中耕一さん、ノーベル化学賞受賞。
田中さんによると、その賞をもらった研究はもともとは失敗が原因だったと言う。
 

実は私も昔会社で働いてた頃、田中さんと同じエンジニアの仕事をしていた。
 

そして私も数々の失敗をしたものである。
私はその当時、医療機器の接着剤や塗料など材料関係の研究開発をしていた。
あるとき、会社でISO9000なるものを取得することになった。
ISO9000とは何かと言うと、自分達で決まりを作って、その決まりどおりにしているかを、外部の人にチェックしてもらうというものである。(多分。)
だから、例えば化学薬品を扱っている部署では、その薬品があと何個あるかをきちんと管理しておかなければならない。
これは当たり前のことのようだが、実際には結構いい加減であることが多いと思われる。
 

私は困った。
私の机のまわりや実験室には、以前展示会でもらった塗料のサンプルや、実験用に購入した接着剤の類が山のように散乱しているのだ。
それらをISOの監査までに整理して、ちゃんと一覧表にしないと、監査が通らなくなってしまう。
そこで、とりあえずもういらないものは捨てることにした。
でも、接着剤などはそのままでは捨てられず、硬化させてから産業廃棄物として処分しなければならない。
工業用の接着剤は2液型で加熱硬化型が多いので、私はいらない接着剤の1液と2液を攪拌し始めた。
普段は使う量だけ少量ずつ混ぜるものだが、今回は廃棄が目的なので一気に全部混ぜた。
それを試作組立室の赤外線ランプの下に置き、加熱を開始した。
あとはそれが固まったら、廃棄するだけである。
 

私はその接着剤が固まるまで、自分の机に戻り、別の仕事に取り掛かった。
しばらくすると、試作組立室の室長の三浦さんが私の机までやってきた。
そして、「まさちゃん(私)、ちょっと。」と真面目な顔で私を呼んだ。
三浦さんとはいつもくだらない話を言い合ってる仲なのに、その時に限って深刻な表情だったので私は気になった。
私は、呼ばれるまま、試作組立室に向かうため、廊下に出た。
そこで私はある異変に気が付いた。
廊下がなんとなくぼや~んと、もやがかかったようだったのだ。
そして試作組立室に足を踏み入れた瞬間、私は目を疑った。
なんと試作組立室は煙で真っ白で、おまけに変な異臭もしている。
その煙を発生させているのは、さっき私が赤外線ランプの下に置いた接着剤であった。
「わあああああ!!!」
気が動転した私は、三浦さんの「まさちゃん、触らないで。」という忠告を無視し、軍手をするとその煙のもとの接着剤をつかみ、流しへ持っていき、水で煙を消した。
それから、そのまま走ってその接着剤を外にある産業廃棄物用のコンテナに投げ入れ、何事もなかったように仕事を再開した。
 

当時私は妊娠中であったのだが、そんなことにはかまっている場合ではなかった。
やっぱり少量で使う接着剤を大量に硬化させるのは無理だったようだ。
試作組立室のある私のいた建物は3階建てであり、その日、その建物にいた人々の間で、「今日、変な臭いするよね。」と噂になったらしい。
これはすべて私のせいだが、火事にならなくて本当によかった。
 

その後、試作組立室に行った私は、そこで同期の男数人が楽しそうに談笑してるのに気付いた。
何だろうと思っていると、
「俺、さっき火が点く瞬間見ちゃったよ~。」
「すげーおもしろかったよ~。」
「パッて火が点いたあと、すごい勢いで煙が出て来るんだもんなあ。」
などと言いながら大笑いしている。
お前ら、笑ってないで火を消してくれよと思ったが、責められるよりは笑われる方がまだましである。
 

それから数日後、同期の男が数人でげらげら笑っているのを目撃した。
今度は何だろうと思って話を聞くと、
「ほんとおもしろかったよなあ。」
「急に火が点いて、煙が出てきてさあ。」
と言って、過去の私の失敗を大笑いしていた。
私の失敗はノーベル賞に繋がるどころか、人々に笑いを提供しただけだったようだ。
私のノーベル賞への道はまだまだ遠い。
その前にもうエンジニアじゃない・・・。
じゃあ内職でノーベル賞でも目指すか。
100パーセント無理だと思うけど。
 

 

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