「雪女郎って知ってる?」

 ママが赤ちゃんを産みに病院に行った夜、おばあちゃんが、初めてうちに泊まりに来て一諸に寝ようとしていたら急に言い出したんだ。


 「あたしは一度だけ見たことあるよ。まだ学校に上がる前であんたより小さかった」

 「でもはっきり覚えてる。なにしろおとうさんが連れていかれたんだから」

 あれ、ママのおじいちゃんって若いころに死んだって。


 「あたしの母親がそう言ってるからね。ママはそう思っているけど」

 「寒い晩だったよ。この辺りにしては珍しく雪が積もっていた。お風呂のあと炬燵に入って三人でご飯を食べていた。おんなのひとが突然訪ねて来てね、扉の陰から小さな声でお父さんの名を呼ぶんだ」

 「頭からマフラーをぐるぐる巻いていたから顔は全然見えなかった」

 「おかあさんはね、知っている人みたいだったよ。一度も訊いた事ないけど、何となくそんな気がした」

 「おとうさんが部屋の奥から、のたよた出てきた。もうオーバーを着てマフラーも巻いているんだ」

 「おばあちゃんね、あーこれでもうお父さんのあぐらの中に入ってご飯を食べさせてもらったり、自転車の後ろに乗せてもらう事もなくなるんだな、って判っちゃった」


 「おかあさんが風呂場に駆け込んで大きな盥にお湯を一杯入れて抱えてきた。扉を開けるとまだその辺にいた二人に向かって何か叫びながらぶちまけた。外は冷えているからね、凄い湯気が上がったよ。お父さんあわてていた。その白い湯気の中でおんなのひとの顔がちらっと見えた」

 すごくきれいなおんなのひとだったの? 

 おばあちゃんはしばらく黙っていた。それから小刻みに震え出した。


 「白い顔だった。あたしはあんな顔、あとにもさきにも見たことがないよ」

 「眼も鼻も口もなかったんだから・・・・・・」


 ママは今頃何しているのかな?赤ちゃんはもう生まれたのかな?

 赤ちゃんは絶対おんなのこに間違いがない。

 お布団の中でそう思った。