こんにちは!

MiMicoです

 

誕生日と新月を超えたら、何だか突然お話が書きたくなって、

今朝思いつくままに書いてみました。

いやー、過去の思い出が走馬燈のようによみがえって泣いた…

 

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「うんちまん」
 
僕のあだなは「うんちまん」だ。
 
あれは1年生の時のことだった。
 
僕はまだ言葉があんまりしゃべれなかった。
 
幼稚園の年長さんまで日本にいたからだ。
 
僕のママは日本人で、パパは韓国人なんだ。
 
とにかく小学校1年生の時、
 
授業中にトイレに行きたい時は、
 
手を上げて「トイレに行きます」って言えばいいからね、
 
とママは言った。
 
でもそんなこと言えるわけない。
 
「トイレに行く」なんて言ったら、
 
みんなに「うんちだろ」ってからかわれるし、
 
緊張して手を上げるなんてこともできない。
 
ってことをママに説明したかったけど、
 
その時の僕はただ「分かった」としか言えなかった。
 
そして、その日は来た。
 
授業中、突然、おなかが痛くなって、ヒヤ汗が出てきた。
 
手をあげて「トイレに行きます」と言わなきゃと、
 
何度も思ったけど、やっぱり無理だった。
 
おなかが痛い、痛い…
 
あっと思った時は、もううんちが出ちゃっていた。
 
だから黙って、授業が終わるまで待っていた。
 
そしたら授業のあと、みんなが「うんちくさい!」と騒ぎ出したんだ。
 
それでも僕が黙っていたら、
 
先生が別の教室にボクを連れていって
 
「ここで待ってなさい」と言った。
 
少ししたら、ママが慌てて教室に入ってきた。
 
ママはボクをトイレに連れていって、着替えさせてくれ、
 
一緒におうちに帰った。
 
帰ってからお風呂に入るように言われて、
 
そのあとママは泣きながら、ボクのパンツを洗っていた。
 
ママは怒った顔で
 
「次からはちゃんとトイレに行くって言うのよ」とだけ言った。
 
ボクは、
 
「ママがぎゅっとしてくれたら言えそうな気がする」
 
と思ったけど、
 
「ぎゅっとして」とは言えなかった。
 
ボクが1年生の時、双子が生まれたんだ。
 
ママはずっとお仕事で忙しい人だった。
 
でもお仕事の合間にボクと折り紙とかして遊んでくれていたし、
 
夜も一緒に眠れた。
 
でも双子が生まれてから、ママはもっと忙しくなっちゃった。
 
ボクと遊ぶ暇もないし、一緒に夜も眠れなくなった。
 
前よりもっと疲れた顔をしてるし、怒りっぽくなった。
 
ボクはおじいちゃんとおばあちゃんの部屋で眠りなさい、と言われた。
 
学校でうんちをしてから、ボクはもっと言いたいことが言えなくなった。
 
学校から戻ると、何もしたくなくなって、
 
ママに宿題しなさい、とか言われると、
 
急に「イモムシ」になりたくなるんだ。
 
だから、頭から布団をかぶって、
 
イモムシになって台所とリビングをもぞもぞと動き回った。
 
ママはあきれて、
 
「どうしちゃったの?反抗期なのかしら?」とか言うんだけど、
 
ボクはただ、ぎゅっと してほしかっただけなんだ。
 
学校で「うんちまん」と言われても、
 
ボクは意外と平気だった。
 
無視してればいいからさ。
 
でも、怖い3年生のお兄ちゃんがいつも待ち伏せして、
 
お金くれと言うので、それが怖かった。
 
ママにそのことを話したらビックリして
 
「絶対に渡しちゃダメよ」と言った。
 
ボクは「分かった」とだけ答えた。
 
ある時から週末に児童心理センターってところに通うことになった。
 
ボクはADなんとかっていう病気らしい。
 
ボクとママはアートセラピーというカウンセリングを月に2回、受けることになった。
 
アートセラピーの先生は、学校で何があった?
 
お友達とはどう?先生はどんな人?
 
何が好き?とか聞いてくれて、
 
ボクは先生にならいろいろ答えられた。
 
ママと違って怒らずに、優しく聞いてくれたから。
 
センターに行く日は、ママと2人でご飯を食べた。
 
ボクの好きなものを何でも食べられたし、
 
ママもちゃんと話を聞いてくれた。
 
でもママに「ぎゅっとして」とだけは言えなかった。
 
児童センターでセラピーを受けるよりも、
 
ママにぎゅっとしてもらって、
 
ママの匂いをかいだらきっと安心するんだけどな。
 
イモムシにもならない気がするのに、
 
とボクはずっと思ってたんだけど、言えなかったんだ。
 
双子が幼稚園に上がった時、うちは引っ越しすることになった。
 
遠くの学校に行くから、
 
もう「うんちまん」って呼ばれることもなくなるのよ、
 
とママはうれしそうに言った。
 
「うんちまん」って言われることなんて、全然平気だよ。
 
お金くれっていうお兄ちゃんは怖いけどさ。
 
とボクは心の中で思った。
 
新しい家にはおじいちゃんとおばあちゃんはいなくて、
 
ボクはちょっと寂しかったけど、ママはうれしそうだった。
 
ママとおじいちゃんとおばあちゃんは仲が悪いみたいなんだ。
 
なぜかは知らないけど。
 
ボクはおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだから、
 
ママもおじいちゃんとおばあちゃんと仲よくなったらいいのになと少し思った。
 
新しい家の周りは海があって山もあった。
 
ママは双子といつも海や山に出かけていった。
 
ボクは家でユーチューブを見る方が面白かったけど、
 
釣りだけは楽しかったな。
 
山や海で遊んでいるうちに、
 
ママはちょっとずつ前より元気になった感じがしてきた。
 
ボクが釣った魚で、
 
ユーチューブを見ながら魚をさばいてお刺身にしたら、
 
ママが「おいしい!こんなの食べたことない」って、
 
ビックリしながら食べてくれて、ボクは得意満面だった。
 
カワサギって魚だったよ。
 
引っ越してからママはいつも双子をぎゅっとしてあげている。
 
ボクはそれを横目で見ながら、
 
ボクもぎゅっとしれくれないかなぁと思ってたんだけど、
 
やっぱり言えなかった。
 
引っ越し先の学校の子たちは、結構いい子だったけど、
 
ある日、学校で日本の悪口を言ってきた。
 
だからボクは、韓国の悪口を言い返したんだけど、
 
それが先生にバレて、ボクだけ居残りをさせられた。
 
先に悪口を言ってきたのはあの子たちなのに…。
 
ボクは悔しくて、ぼろぼろ泣きながら家に帰った。
 
泣きながら帰ってきたボクを見て、
 
ママは「どうしたの!?」とビックリしていた。
 
ママは「ひどい先生だね」って慰めてくれたけど、
 
そのときもボクは、ぎゅっとしてほしかったんだ。
 
あるとき、突然夜、怖くて不安で眠れなくなった。
 
たぶんADなんとかの薬のせいだよ、ってパパが言った。
 
いつもなら我慢するんだけど、
 
その日は怖い想像が頭から消えなくって、
 
ママが双子にぎゅっとしてあげているのを見て、
 
ボクも試しに言ってみたんだ。
 
「ママ、ボクもぎゅっとして」
 
そしたらママは「いいよー!おいで」って言ってくれた。
 
ボクはてっきり「おにいちゃんでしょ、もう大きいのに」
 
って言われると思ったんだ。
 
なんだ、もっと早く「ぎゅっとして」って言えばよかったんだ。
 
ママの匂いは安心して、ボクの大好きなまくらの匂いがした。