決定日時
最決平成23年08月24日
裁判要旨
第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合と控訴審における勾留

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81674&hanreiKbn=02


決定全文

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111007094042.pdf


以下、引用。


第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認められるときは,その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができるというべきである(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁,最高裁平成19年(し)第369号同年12月13日第三小法廷決定・刑集61巻9号843頁参照)。以上のような観点から見て,被告人に対して犯罪の証明がないことを理由に無罪を言い渡した第1審判決を十分に踏まえても,なお被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,勾留の理由及び必要性も認められるとして本件勾留を是認した原決定に所論の違法はない」
※強調、アンダーラインはESP。


この問題については、最決平成12年6月27日刑集54巻5号461頁が次のように判示していました。

「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合であって、刑訴法六〇条一項各号に定める事由(以下「勾留の理由」という。)があり、かつ、その必要性があるときは、同条により、職権で被告人を勾留することができ、その時期には特段の制約がない。したがって、第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の判決を言い渡した場合であっても、控訴審裁判所は、記録等の調査により、右無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、勾留の理由があり、かつ、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、その審理の段階を問わず、被告人を勾留することができ、所論のいうように新たな証拠の取調べを待たなければならないものではない。また、裁判所は、勾留の理由と必要性の有無の判断において、被告人に対し出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制の手続が執られていることを考慮することができると解される。以上と同旨の原決定の判断は、正当である」

平成12年決定は、刑訴60条の要件を充足すれば、無罪判決後の勾留が認められることを示していましたが、無罪判決が出たことをどのように考慮すべきかについては、必ずしもはっきりしなかったと言えます。

そのような中で、平成12年決定の趣旨を明確にしたのが、平成19年12月13日最高裁決定(刑事訴訟法百選99事件)です。


「第1審裁判所において被告人が犯罪の証明がないことを理由として無罪判決を受けた場合であっても,控訴裁判所は,その審理の段階を問わず,職権により,その被告人を勾留することが許され,必ずしも新たな証拠の取調べを必要とするものではないことは,当裁判所の判例(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁)が示すとおりである。しかし,刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である。そして,このように解しても,上記判例の趣旨を敷えんする範囲内のものであって,これと抵触するものではないというべきである

最高裁の立場は、無罪判決を考慮しても、なお60条の要件が充足すると裁判官が判断するのであれば、勾留を認める立場と言えます。その意味では、平成12年決定、平成19年決定、そして本決定は一貫したものと言えます。ただ、平成19年決定が極めて慎重な言い回しをした上で判断していたのに比べると、本決定は過去の決定の趣旨を踏まえていないとは言えないものの、慎重な検討過程を、決定文の中で示すべきだったのではないかと思います。