法学セミナー666号
http://www.nippyo.co.jp/magazine/5318.html
[ロー・ジャーナル]
法曹養成の課題~その現状と民事法教育のあり方
――大阪弁護士会によるシンポジウム/藤本一郎
この中で、法科大学院卒の司法修習生の傾向として、「条文をその場で見ない傾向がある」(市野澤要治弁護士の指摘)との指摘がありました。また、法科大学院でチューターを務めているという高橋幸平弁護士も、最近の法科大学院生の傾向として、「条文を引かない学生が非常に多い」と指摘しています。
この指摘が正しいとすれば、深刻な課題であると思います。法的議論の出発点はやはり条文ですから、日頃の勉強で条文は常に参照する、答案では条文のあるところはきちんと条文を引用することが必要だと思います。書かれている内容が例え正しくとも、条文の引用が間違っている、条文を引用しない、というのであれば、減点されてもやむを得ないと思われます。
ただ、この点は、近時公開されたコアカリキュラム案でも同様で、ルールの理解のみが前面に出され、「根拠条文に基づいて」という指摘が少ないのが、気になるところです。(条文のあるルールについては)根拠条文とルールは、セットで理解されるべきものです。
また、法科大学院生、法科大学院出身の修習生に、書く訓練が必要なのではないか、という指摘もされています(林功弁護士の指摘)。
以上のように、論稿では法科大学院・新司法試験制度、それを踏まえた修習の現状と課題の分析でしたが、どうも読んでいると、これまでの一般になされてきた指摘に留まっている感がありました(もちろん、論稿はシンポジウムを再現したものではなく、それの紹介・要約なので、当日はもっと詳細な分析が披露されたのかもしれませんが)。ただ、法曹の質の議論が、新人法曹をつぶすためではなく、国民の生活のためであることを考えると、現状を嘆いているだけではなく、もう少し進んだ分析と、それを踏まえたフィードバックが必要ではないかと思います。「ダメだダメだ」、「昔に戻せ」は例え正しいとしても、現実的には、生産的な議論とは思えません。
これは新司法試験の分析でも言えることで、ロースクール研究の最新号で、新司法試験得点から、既修者・未修者毎の傾向が示されています(潮見佳男「新司法試験結果の数値からみた傾向分析」ロースクール研究15号5頁以下)。そこでは、未修者の短答式の弱さが指摘されているのですが、問題解決のためには、もう少し踏み込んだ分析が必要のような気がします。というのは、未修者が一般的に短答試験が弱いのか、それとも、科目によって異なるのかによって、とるべき解決策が異なるからです。仮に既修者と未修者の差が全科目にあるのではなく、特定の科目(例えば民事系)にあるのであれば、問題ある科目の勉強の仕方ないし教育の仕方に問題があるわけであり、そこを集中的に改善する必要があるからです(逆を言えば、仮に民事系だけに原因があれば、公法・刑事系はそのままでよいことになります)。ただし、新司法試験のデータについては、まだ詳細なデータは法務省から明らかになっていないので、やむを得ないことではありますが(現状では、各法科大学院が受験生の任意の協力を得て、データを集積するしかありません)。
現状を改善するためには、2回試験や新司法試験について、受験生のプライバシーを侵害しない限りで、もっと詳細なデータが開示されても良いのかも知れません。例えば、新司法試験における、大学院別の短答式・論文式の科目別平均が出されれば、その法科大学院生の得手不得手が一目瞭然となり、それぞれの法科大学院における問題改善の一歩になると思います。そしてそれが最終的に法曹の質の向上につながり、利用者である国民のためになるように思われます。