今月(2009年8月号)の法学セミナーより。

その2。


法学セミナー 2009.8 656号

http://www.nippyo.co.jp/magazine/5083.html


■立法と現場
新信託法の成立とその機能/新井 誠

 

新しい信託法について、批判的な検討がされています。新井先生の立場は、以下の部分に凝縮されていると思います。

「信託法に対してこのような批判的な指摘がなされることは、私見を除けば、極めて稀である。その理由は明白である。法務省・経済産業省と信託業界が有力な研究者を結集して、産官学が一体となって推し進めてきた立法であり、そのような立法には批判が許されないからである。

 私見によれば、新信託法は信託の本質から逸脱し、わが国社会の土壌にもなじまないので早急な改正が必要である。もっとも旧信託法の制定から新信託法の成立まで約80年を要したことを考えると、信託法の再改正を当面望むべくもない。新信託法に期待することなく、高齢社会に相応しい福祉型信託を文字通り手探りで実現されせていくことが一信託法学徒に課せられた責務であるように思われる。進むべき途は険しく遠い」(同誌3頁)


言いたいことは分かるのですが、「信託の本質」から批判するのことが、批判たりうるかは留保が必要だと思います。「本質」は全ての人にとって自明の理ではないですから、「○○の本質は××であるから、今回の立法は間違っている」としても、「そのような『本質』は今回の立法ではとっていません」と開き直られてしまえば、それでおしまいだからです。ちょっと前も、本質論から批判を受けたものの、立法担当者が聞く耳をもたない例があったことが思い出されます(そう、あの法律 です)。


ただ、新井先生は新信託法の全てを批判しているのではなく、後継ぎ遺贈に関する規定を新設したことについては、高く評価されています(同誌3頁)。