その2。

論点としては、共犯からの離脱の問題。

共犯者が住居侵入罪の着手後、強盗(致傷)罪の着手前、という事案です。

法科大学院等の刑事法科目の事例問題によい素材のような気がします。


事件番号 平成19(あ)1580
事件名 住居侵入,強盗致傷被告事件
裁判年月日 平成21年06月30日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成19(う)760
原審裁判年月日 平成19年07月19日

判示事項
裁判要旨 共犯者が住居に侵入した後強盗に着手する前に現場から離脱した場合において共謀関係の解消が否定された事例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37742&hanreiKbn=01


全文pdf
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090702102554.pdf


「1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
(1) 被告人は,本件犯行以前にも,第1審判示第1及び第2の事実を含め数回にわたり,共犯者らと共に,民家に侵入して家人に暴行を加え,金品を強奪することを実行したことがあった。
(2) 本件犯行に誘われた被告人は,本件犯行の前夜遅く,自動車を運転して行って共犯者らと合流し,同人らと共に,被害者方及びその付近の下見をするなどした後,共犯者7名との間で,被害者方の明かりが消えたら,共犯者2名が屋内に侵入し,内部から入口のかぎを開けて侵入口を確保した上で,被告人を含む他の共犯者らも屋内に侵入して強盗に及ぶという住居侵入・強盗の共謀を遂げた。
(3) 本件当日午前2時ころ,共犯者2名は,被害者方の窓から地下1階資材置場に侵入したが,住居等につながるドアが施錠されていたため,いったん戸外に出て,別の共犯者に住居等に通じた窓の施錠を外させ,その窓から侵入し,内側から上記ドアの施錠を外して他の共犯者らのための侵入口を確保した。
(4) 見張り役の共犯者は,屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前の段階において,現場付近に人が集まってきたのを見て犯行の発覚をおそれ,屋内にいる共犯者らに電話をかけ,「人が集まっている。早くやめて出てきた方がいい。」と言ったところ,「もう少し待って。」などと言われたので,「危ないから待てない。
先に帰る。」と一方的に伝えただけで電話を切り,付近に止めてあった自動車に乗り込んだ。その車内では,被告人と他の共犯者1名が強盗の実行行為に及ぶべく待機していたが,被告人ら3名は話し合って一緒に逃げることとし,被告人が運転する自動車で現場付近から立ち去った。
(5) 屋内にいた共犯者2名は,いったん被害者方を出て,被告人ら3名が立ち去ったことを知ったが,本件当日午前2時55分ころ,現場付近に残っていた共犯者3名と共にそのまま強盗を実行し,その際に加えた暴行によって被害者2名を負傷させた。
2 上記事実関係によれば,被告人は,共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ,共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。これと同旨の判断に立ち,被告人が住居侵入のみならず強盗致傷についても共同正犯の責任を負うとした原判断は正当である」