以前紹介した決定 について、最高裁のホームページに決定文がUPされました。


事件番号 平成20(行フ)5
事件名 検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
裁判年月日 平成21年01月15日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 決定
結果 破棄自判
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 福岡高等裁判所
原審事件番号 平成20(行タ)3
原審裁判年月日 平成20年05月12日

判示事項
裁判要旨 情報公開訴訟において不開示文書につき被告に受忍義務を負わせて検証を行うことは,原告が立会権を放棄するなどしたとしても許されず,そのために被告に当該文書の提示を命ずることも許されない。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37198&hanreiKbn=01


「3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消しを求める訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)において,不開示とされた文書を対象とする検証を被告に受忍させることは,それにより当該文書の不開示決定を取り消して当該文書が開示されたのと実質的に同じ事態を生じさせ,訴訟の目的を達成させてしまうこととなるところ,このような結果は,情報公開法による情報公開制度の趣旨に照らして不合理といわざるを得ない。したがって,被告に当該文書の検証を受忍すべき義務を負わせて検証を行うことは許されず,上記のような検証を行うために被告に当該文書の提示を命ずることも許されないものというべきである。立会権の放棄等を前提とした本件検証の申出等は,上記のような結果が生ずることを回避するため,事実上のインカメラ審理を行うことを求めるものにほかならない。
(2) しかしながら,訴訟で用いられる証拠は当事者の吟味,弾劾の機会を経たものに限られるということは,民事訴訟の基本原則であるところ,情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために証拠調べとしてのインカメラ審理を行った場合,裁判所は不開示とされた文書を直接見分して本案の判断をするにもかかわらず,原告は,当該文書の内容を確認した上で弁論を行うことができず,被告も,当該文書の具体的内容を援用しながら弁論を行うことができない。また,裁判所がインカメラ審理の結果に基づき判決をした場合,当事者が上訴理由を的確に主張することが困難となる上,上級審も原審の判断の根拠を直接確認することができないまま原判決の審査をしなければならないことになる。
 このように,情報公開訴訟において証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは,民事訴訟の基本原則に反するから,明文の規定がない限り,許されないものといわざるを得ない。
(3) この点,原審は,情報公開法にはインカメラ審理に関する明文の規定は設けられていないものの,裁判所が情報公開訴訟において不開示事由該当性の判断を適正に行うために不開示とされた文書を直接見分することが必要不可欠であると考えた場合には,インカメラ審理をすることができるとする。
 しかしながら,平成8年に制定された民訴法には,証拠調べとしてのインカメラ審理を行い得る旨の明文の規定は設けられなかった。なお,同法には,文書提出義務又は検証物提示義務の存否を判断するためのインカメラ手続に関する規定が設けられ(平成13年法律第96号による改正前の民訴法223条3項,232条1項),その後,特許法,著作権法等にも同様の規定が設けられたが(特許法105条2項,著作権法114条の3第2項等),これらの規定は,いずれも証拠申出の採否を判断するためのインカメラ手続を認めたものにすぎず,証拠調べそのものを非公開で行い得る旨を定めたものではない。
 そして,平成11年に制定された情報公開法には,情報公開審査会が不開示とされた文書を直接見分して調査審議をすることができる旨の規定が設けられたが(平成13年法律第140号による改正前の情報公開法27条1項),裁判所がインカメラ審理を行い得る旨の明文の規定は設けられなかった。これは,インカメラ審理については,裁判の公開の原則との関係をめぐって様々な考え方が存する上,相手方当事者に吟味,弾劾の機会を与えない証拠により裁判をする手続を認めることは,訴訟制度の基本にかかわるところでもあることから,その採用が見送られたものである。その後,同13年に民訴法が改正され,公務員がその職務に関し保管し又は所持する文書についても文書提出義務又は検証物提示義務の存否を判断するためのインカメラ手続を行うことができることとされたが(民訴法223条6項,232条1項),上記改正の際にも,情報公開法にインカメラ審理に関する規定は設けられなかった。
 以上に述べたことからすると,現行法は,民訴法の証拠調べ等に関する一般的な規定の下ではインカメラ審理を行うことができないという前提に立った上で,書証及び検証に係る証拠申出の採否を判断するためのインカメラ手続に限って個別に明文の規定を設けて特にこれを認める一方,情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために証拠調べとして行うインカメラ審理については,あえてこれを採用していないものと解される。
(4) 以上によれば,本件不開示文書について裁判所がインカメラ審理を行うことは許されず,相手方が立会権の放棄等をしたとしても,抗告人に本件不開示文書の検証を受忍すべき義務を負わせてその検証を行うことは許されないものというべきであるから,そのために抗告人に本件不開示文書の提示を命ずることも許されないと解するのが相当である」

※強調はESP、アンダーラインは最高裁ホームページに基づく。