帰らぬ日々・人生の羽音
きっかけは間の悪い偶然だった。勘違いから始まった悪夢の連鎖。
そして2人は別々の道を歩む事になり、女性の方は別の土地へ旅立ち、男性の方はげっそりと痩せながらも日々を過ごしている。
意識のすれ違いというのは恐ろしいもので、時には人生航路の変更を余儀なくされる。それも互いに不幸になって。あの時は幸せそうな顔をしていたのに。
男性は女性の過去を知りながら、彼女を受け入れた。それは賞賛に値しよう。単なる同情でそこまでやれるとは思えない。
女性もまた、その過去を隠さなかった。それを知られるのに若干の不安があっただろう。だが、彼女は彼を信じていた、あるいは愛していたからこそ、過去を打ち明けたのだろう。
自分は、その過去こそが2人をつなぎ止める役割を果たすと思っていたのだが―――
2人がどんな出会いをしたのかは知らない。信用できない筋では合コンらしい。意気投合した、というよりも相談に乗るような形だったという。それで何度か合うようになって(1対1とは限らなかったようだが)、互いに惹かれていったとか。
女性は容姿こそ標準をやや下回る程度であった。また、性格的にも外交的・開放的では無く、むしろ陰気な方だった。彼女の過去・職業を考えれば仕方あるまい。
悪い言い方をすれば、自我が弱くて回りに流されやすい性質のうえ、自分一人の腕では生きていけない女性だ。
だからこそ、頼れる存在を求めていたのだろう。
男性はごく普通の男だった。少々小太りではあったが、性格も鷹揚で物腰も柔らかだったし、酒の座持ちも悪くなく、いい意味でナイスガイだった。
酒の肴で「女性はこういう男性と結婚したら幸せなんだろうな」と誰かが言っていたのを思い出す。
自分は男性とも女性とも既知の仲だったが(主に男性の方)、近しかったわけではないので詳細は知らない。
しかし、周りの話や状況を推察すると、破局の歯車は上手く(悪く)回ったようだ。一つの事象が次の事象を生み、さらなる深みへと。まさに連鎖反応、というのに相応しい巡りだったのだろう。
男性の方は面倒見が良かった。
酒の席で酔いつぶれた、同伴していた(別の)女を介抱していたのだが、その女性の住所も知らず、やむなくビジネスホテルに泊めて書置きのみを残して去ろうとしたという。
しかし、それを見た人間がいた(酔いつぶれた女をホテルに連れ込む姿らしい)。
決して悪気が無かったのだろうが、口を滑らせたのがいけなかった。噂というのは恐ろしいもので、回りまわって話が微妙に変わっていき、女性の耳に入った。
人曰く、「浮気していた、と勘違いしていたのではないか」。
ほどなく、男性は仕事で日本各地・海外を回る事になる。女性は多少、情緒不安定に陥っていたのかもしれない。それほど忙しかったようだ。
愛されていない、と勘違いしてしまったのかもしれない。その代替として、夜の街を彷徨い、そして別の男と出会い、愛される事を望み、叶えられたのだろう。
女性の一時的な気まぐれで済めば、話はそのまま自然消滅したかもしれない。しかし、女性は別の男に惹かれてしまった。
男性はそれを少し後で知った。少しは動揺したのかもしれないが、傍目にはそれを気付かせるものではなかった。
自宅に帰らぬ女性、帰られない男性。
すれ違い。
それが半年ほども続いたのだろうか。
別の男が地方に帰ったのだか赴任したのだか知らないが、東京を離れる事になり、そして―――
男性の仕事が落ち着き、比較的安穏とした時期が続いた。しかし、それはあくまで仕事上の事。
一人ぽつん、と過ごす毎日だったという。アルコールの量が増えたとも言っている。
その傍らには、郵送されてきた一通の封書、署名・捺印付き紙切れが一枚。
「事件」から1年ほど経ち、2人は実質的にも名目的にも別れた。
今でこそ、かつての容姿を取り戻しつつあるが、一時期は傍目にも見ていられない状態だったという。
自分がそれらを知ったのは、全てが終わってから。
一体、人生とはどこで決まり、続いていくのだろうか。
一瞬の光芒か、日々の積み重ねか、あるいは両方か。
所詮は他人の人生であり自分とはあまり関係の無い話だが、酒の力を借りて自問自答する。
だが、答えはなかなか出ない。
出るものでも無い、というのは分かっているつもりなのだが、陥る思考の迷路。
叶うならば、幸せをつかめるように。幸せを逃さないように。
そう祈りつつ、幸せとは何かを考えている。
そして2人は別々の道を歩む事になり、女性の方は別の土地へ旅立ち、男性の方はげっそりと痩せながらも日々を過ごしている。
意識のすれ違いというのは恐ろしいもので、時には人生航路の変更を余儀なくされる。それも互いに不幸になって。あの時は幸せそうな顔をしていたのに。
男性は女性の過去を知りながら、彼女を受け入れた。それは賞賛に値しよう。単なる同情でそこまでやれるとは思えない。
女性もまた、その過去を隠さなかった。それを知られるのに若干の不安があっただろう。だが、彼女は彼を信じていた、あるいは愛していたからこそ、過去を打ち明けたのだろう。
自分は、その過去こそが2人をつなぎ止める役割を果たすと思っていたのだが―――
2人がどんな出会いをしたのかは知らない。信用できない筋では合コンらしい。意気投合した、というよりも相談に乗るような形だったという。それで何度か合うようになって(1対1とは限らなかったようだが)、互いに惹かれていったとか。
女性は容姿こそ標準をやや下回る程度であった。また、性格的にも外交的・開放的では無く、むしろ陰気な方だった。彼女の過去・職業を考えれば仕方あるまい。
悪い言い方をすれば、自我が弱くて回りに流されやすい性質のうえ、自分一人の腕では生きていけない女性だ。
だからこそ、頼れる存在を求めていたのだろう。
男性はごく普通の男だった。少々小太りではあったが、性格も鷹揚で物腰も柔らかだったし、酒の座持ちも悪くなく、いい意味でナイスガイだった。
酒の肴で「女性はこういう男性と結婚したら幸せなんだろうな」と誰かが言っていたのを思い出す。
自分は男性とも女性とも既知の仲だったが(主に男性の方)、近しかったわけではないので詳細は知らない。
しかし、周りの話や状況を推察すると、破局の歯車は上手く(悪く)回ったようだ。一つの事象が次の事象を生み、さらなる深みへと。まさに連鎖反応、というのに相応しい巡りだったのだろう。
男性の方は面倒見が良かった。
酒の席で酔いつぶれた、同伴していた(別の)女を介抱していたのだが、その女性の住所も知らず、やむなくビジネスホテルに泊めて書置きのみを残して去ろうとしたという。
しかし、それを見た人間がいた(酔いつぶれた女をホテルに連れ込む姿らしい)。
決して悪気が無かったのだろうが、口を滑らせたのがいけなかった。噂というのは恐ろしいもので、回りまわって話が微妙に変わっていき、女性の耳に入った。
人曰く、「浮気していた、と勘違いしていたのではないか」。
ほどなく、男性は仕事で日本各地・海外を回る事になる。女性は多少、情緒不安定に陥っていたのかもしれない。それほど忙しかったようだ。
愛されていない、と勘違いしてしまったのかもしれない。その代替として、夜の街を彷徨い、そして別の男と出会い、愛される事を望み、叶えられたのだろう。
女性の一時的な気まぐれで済めば、話はそのまま自然消滅したかもしれない。しかし、女性は別の男に惹かれてしまった。
男性はそれを少し後で知った。少しは動揺したのかもしれないが、傍目にはそれを気付かせるものではなかった。
自宅に帰らぬ女性、帰られない男性。
すれ違い。
それが半年ほども続いたのだろうか。
別の男が地方に帰ったのだか赴任したのだか知らないが、東京を離れる事になり、そして―――
男性の仕事が落ち着き、比較的安穏とした時期が続いた。しかし、それはあくまで仕事上の事。
一人ぽつん、と過ごす毎日だったという。アルコールの量が増えたとも言っている。
その傍らには、郵送されてきた一通の封書、署名・捺印付き紙切れが一枚。
「事件」から1年ほど経ち、2人は実質的にも名目的にも別れた。
今でこそ、かつての容姿を取り戻しつつあるが、一時期は傍目にも見ていられない状態だったという。
自分がそれらを知ったのは、全てが終わってから。
一体、人生とはどこで決まり、続いていくのだろうか。
一瞬の光芒か、日々の積み重ねか、あるいは両方か。
所詮は他人の人生であり自分とはあまり関係の無い話だが、酒の力を借りて自問自答する。
だが、答えはなかなか出ない。
出るものでも無い、というのは分かっているつもりなのだが、陥る思考の迷路。
叶うならば、幸せをつかめるように。幸せを逃さないように。
そう祈りつつ、幸せとは何かを考えている。