田辺聖子さんの「隼別皇子の叛乱」(中公文庫)
大和を統べる大王の時代。かつてないほどの力を誇る大王にも、懸念がありました。自分が壮年期を過ぎかけていること。そんな彼の前に現れたのは、はなやかな美少女、女鳥王。大王は、さっそく、女鳥を後宮へ迎え入れるべく、準備を始めます。それを、皮肉な目でみるのは大王妃、磐の姫。不美人と名高い彼女ですが、それほど醜い女ではありません。ただ、聡すぎるだけ。磐の姫は知っていたのでした。女鳥が、大王の末弟、若々しい隼別皇子と言い交わしてしまったことを。
女鳥を奪われそうになるや、たちまち、大王に叛旗を翻す、若く純粋で無謀な隼別皇子。女鳥を助け出し、その妹の幼女、女鹿王もつれて、近江の湖畔の山中にたてこもります。勝算など、微塵もない。
もはや、今生での契は果たせなくてもいい。それが、わかい恋人たちの真の心。
しかし、おさない女鹿は助けてほしい、と。
その願い通り、女鹿の命を救い、宝物のように大切に扱う大王。山のような贈り物。玻璃の床の宮殿。しかし、それは、あらたな哀歌の幕開けだったのでした・・・・・
サトクリフ以降、古代&ヒロイック路線でございます。
しかも、ダブル・ヒロイン。
牡丹のように咲き誇る女鳥。
撫子のように可憐な女鹿。
それにしても、大王が女鹿に与える贈り物の美しいこと。
すべてが、遠くて近い「からのくに」、魏の国からの到来物。
宝石を敷き詰めた水盆。
時間が来ると、音を奏でる噴水。
異国からの先進文化に驚く女鹿。
でも、欲しがらない女鹿。彼女は、一体、何を望む。
田辺聖子さんの初期の作品なので粗さはあります。しかし、それを超えて、たけだけしくも美しい、古代日本の愛の物語。
ふと思う。田辺さんには、こちらの道もあったのでは、と。杉本苑子さんの「竹の御所鞠子」のような。
ちなみに、宝塚でも演じられた物語のひとつ。