さて、「王のしるし」に続くのは、12巻にも及ぶライトノベル「烙印の紋章」です。コンセプトは似ています。剣闘士が皇太子の身代わりになる。では、ご紹介を。作者さんは、このところ私がハマっている杉原智則さん。ちなみに、杉原さんが影響を受けた作家さんは、エドガー・ライス・バローズ。そう「火星のプリンセス」とか「地底王国ペルシダー」とか書いた冒険ファンタジー作家さんです。

 

複雑な国際紛争の続くガーベラ王国、メフィウス帝国、エンデ公国。このたび、10年にわたる戦争に終止符を打つべく、ガーベラ王国のビリーナ王女と、メフィウス帝国のギル皇太子が結婚することになりました。ところが、皇族にもあるまじき不祥事を引き起こしたあげく、ギル皇太子は急死。居合わせた大貴族フェドムは、とっさに仮面で顔を隠した剣闘士オルバをギルの身代わりに仕立てることを考えます。オルバは何を隠そうギルに瓜二つ。そのため、仮面をつけられていたのでした。皮肉にも、フェドムは反皇族派。しかし、国の危機にそんなことを言っていられません。ギルの後見人シモンは疑問を持ちますが、まさか皇太子が替え玉だとは考えもつかない。

さて、嫁いできたビリーナ姫は、14歳ながら、飛空艇を乗り回す豪胆な少女。隙あらば、ギル皇太子を丸め込んで支配せよと、父王から言い含められています。

初体面の夜会で、フェドムから離れることさえ出来ないオルバ。

どうにか切り抜け、翌日には、剣闘技の見物へ。と、いきなり、グラウンドの竜が暴走。とともに、オルバとビリーナのそばで鳴り響く銃声。何者かが、ふたりの暗殺を企てている・・・・・・

 

 

これが序盤の序盤。「王のしるし」との大きな違いは、本物のギルがどうしようもないバカ殿だということ。

さて、そのギルとして狙われたオルバはどうするのか。ビリーナも助けなければならない。

 

利口すぎないよう、しかし、危機は切り抜けなければならない。全12巻の序盤のみどころのひとつです。2巻、3巻あたりでは、ちょい「利口すぎ」てしまうところがあり、思わず、ヒヤリと。

ビリーナの方は「助け」なくても大丈夫。「自分で自分を」助けるなんて、朝メシ前。どころか、小型飛空艇を駆って、助力に駆けつけてくる。

 

宮廷内のふくざつな人間模様も、見どころのひとつ。特に、反皇族派のフェドムが、必死になって皇族(替え玉)を護ろうとするところには笑ってしまう。

巻を追うごとに、戦いは周辺諸国を巻き込んでいくわけですが、そのあたりの各国の君主、貴族たちのキャラクターの描き分けもじゅうぶんです。

 

特に、渋くて素敵な「ジーサン」ズ。

剣闘士の指南役だったゴーウェン。

格好よさに老化はない、メフィウス帝国の将軍ローグ・サイアン。

一軍の名将でありながら、自身、武術はからっきしな将軍フォルカー。

あと「ジーサン」ではなく「おっさん」ですが、元剣闘士パーシル。ガーベラ王国の誇る英雄、リュカオン。

 

残念なのが「笑いどころ」の少なさ。お笑い担当は、ビリーナ姫の兄、ゼノン王子。

騎士の国ガーベラ王国の王族にふさわしい立派な騎士なのですが・・・・・・なぜ、騎士って、ネタキャラになりやすいんでしょう。王国の分裂を心配し、父と兄に苦言を呈するゼノン王子。ところが、話せば話すほど「自分のほうが、国を分裂させる危険人物に思えてきた」。

その後の、兄弟げんかのシーンに至っては、大爆笑。

 

はっきりいって、ライトノベルにしては硬派です。なぜ、ハヤカワ文庫JAでださなかったのか。

 

さて、「王のしるし」とくらべると、同じ替え玉でありながら、その運命はまったく違う道をたどる。12巻と長いですが、あっという間に読めます。ぜひとも、読み比べてみてください。

 

にしても、イラストレーターのイラスト、もっとどうにかならなかったのか。イメージが台無し。