恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」

とある、パリで行われたピアノ・コンクールに、彗星のごとく現れた天才少年、風間塵。父親は養蜂家。実家にはピアノさえない。かれは、神のギフト天才なのか、悪魔のギフト異端なのか。彼の国籍不明な美しい容姿も相まって、その名は瞬く間に音楽界に広がります。

そして、やや時を置き、日本の芳ガ江でおこなわれる国際ピアノコンテスト。出場者には、風間塵が。

他の出場者は、栄伝亜夜。かつて、一世を風靡した天才少女ピアニスト。マネージャーを兼任していた母の死によりショックを受け、コンサートをドタキャン。そのまま、今や、過去の人へ。

マサル。複雑に混血した日系人。混血の良いところ取り。

高島明石。上限ぎりぎりの28歳で、サラリーマンという変わり種。

かれらは、風間塵との関わりによりすこしづつ、かわっていく・・・・・・

 

 

ああ、積読すること3年。とっくに、文庫化されてしまいました。アホな話です。

 

新刊で手にした時には、読む気満々でした。が、ページを開くと・・・・・・えんえんと連なるコンサートの演目リスト。こういうの、わたし、ダメなんです。むかし、ル・グィンのSFで、冒頭5ページが主人公の書いた論文、という中編がありまして、リタイアしました。同じ理由で、岡嶋二人さんの「クラインの壺」もリタイアしかけたので、この作品が岡嶋さんの最高作と言う意見には、承服しかねています。

 

やっぱり、エンタメである以上、冒頭から楽しませてほしいです。きっかけは「彼女が選ぶのは、はたして、鯖味噌煮定食なのか」なんてもので充分ですから。ね。今村昌弘さん。

 

低テンションで読んだため、ずっと低テンションです。内省的な戦いはたくさん。「FEED」「ブルー」「少女には向かない職業」「希望の死んだ夜に」・・・・・・こんなにも、多くの外敵と闘っている若い子たちがいるのに。自分のこころに分け入って「影」とたたかっていたら、外の敵に容赦なく魂を殺される子どもたち。

 

「蜜蜂と遠雷」。ひとことで言えば「ギフト」の話。まちがいない。悪魔のギフトか、神のギフトか。

 

ただ、これ、恩田陸さんでなくても書ける話。それだけは言えると思います。現に、肉薄する作品を、山岸涼子さんが、漫画「テレプシコーラ」で書いています。見るものを惑乱と陶酔にみちびく、天才バレエ振付師の少女、しかも中学生の物語。

「夜のピクニック」は別。あれは恩田さんの作品。

 

あの夜の気配に包まれた「ひ・み・つ」。

 

まだ夏バテなので、これにておやすみなさい。

 

ああ、でも、天祢涼さんの「希望が死んだ夜に」のネガ。夏休みも後半。ちゃんと、コップで水が飲めてるだろうか。いや、生きるために飲まねばと、覚悟してくれてるだろうか。