福澤徹三さんの「東京難民」(光文社)

時枝修21歳。地方出身で、東京の三流私立の3年生。親から15万円も仕送りをもらっているが、本人は不満。社会の貧困化は知っているが、馴染みの定食屋がつぶれたのをみて「ふーん」と思う程度。綾香という彼女もいるが、友人の雅樹がうらやましくて仕方ありません。雅樹は会社役員の息子で、小遣いは潤沢、その上、恵まれた容姿を生かしてモデルのバイトまでしています。

さて、ある日、修は突然、大学の事務から呼び出され、除籍を言い渡されます。なんと、両親が修の学費を払っていないのでした。慌てて、実家に連絡しても、音信不通。その上、マンションの家賃まで未払い。

大学生から無職になった修。住むところは、内心「メタボ」とバカにしていた貧しい友人雄介のアパートに間借りさせてもらいます。

そして、さっそく、職探し。とはいえ、高卒扱いで、入社するのは修のプライドが許しません。学費を稼ぐためと、いいわけしつつ、まずはポスティングのアルバイトから。ただポストに、ビラを入れるだけと思っていたバイトですが、じっさいにはじめてみると・・・・・

 

 

まあ、お馴染み、「貧困」の物語。

「子どもの貧困」に関しては「読みつくした」感があり、しかも、読むたびに胸が痛むので、そろそろ打ち切りにしたい、と。

 

福澤徹三さんは「侠飯」の人。

安心して読めるのでは、と思ったのですが・・・・・・うーん。

 

主人公に、ひとかけらの共感も持てない。

バカにしていた友人の下宿に転がり込みながら、感謝もせず、せまい、ふろがない、と文句たらたら。

自分だって、雅樹のように富と容姿に恵まれてれば、という他力本願主義。

どんなに転落していっても、その甘さは、改善されず。はっきり言って、「落ちるべくして落ちた男の話」としか思えない。

だいたい、今のご時世、仕送り15万円ももらってるんですよ。大卒OLの手取り月収に届くほどの金額。それでいながら、3年にもなって、将来のことなんて、何ひとつ考えていない。だれかが(たぶん、両親のコネで)なんとかしてくれるだろう、と思っているのは、明々白々。

 

印象的な登場人物が、建築現場に住み込み中のある作業員、小早川。イミシンななまえ。純文学作家をめざすインテリで、同室者からも一目置かれている。弁舌爽やかに語る貧富論。ところが。ヤクザが主人公を追って乗り込んでくると「ぼくには、なにも出来ない」とうなだれるだけ。たぶん、一生、作家レビューはできないでしょう。

 

はっきりいって、感動はありません。ただ、確かな反面教師像が、ここにあります。