麻生荘太郎さんの「少年探偵とドルイッドの密室」(南雲堂)

 

北部スコットランドの伝承あふれる島、スカイ島。領主階級の少年、ジルベールは、幼い妹シオンに、この島に伝わる古い古い妖精たちの戦いについて話します。輝かしいエルフ族の敵、ダーク・ドルイッドについても。こわがりながらも、聞き入ってしまうシオン。無惨にも、それから間もないある日、シオンの一族を凄惨な悲劇が襲います。

 それから、何年もたった現代。大学1年生の深町麟は、人気アイドル、カレン・スマイリーとともに機内の人となっています。麟の役目は、カレンのボディガード。思いっきり頼りないボディガードですが、今回のしごとは「武力」<「知力」と判断されたのでした。じつは、カレンの目的地は、スコットランドのスカイ島。ところが、なぜか、だれかが、妨害しようとしているのでした。

飛行機を降り、豪華特急列車へ。ところが、列車の客たちの顔ぶれにずらっと並ぶ有名人たち。なにか、もやもやしている麟。そんんなとき、乗客のひとり、人気マンガ家、赤松パトラから、こぼされます。ストーカーに悩んでいることを。ふつうなら「真剣に相談」すべきことを「こぼす」ですませてしまう豪快さが、パトラの持ち味。

 ところが、やがて、パトラのコンパートメントで、血まみれの遺体が発見されます。しかし、窓の外から見る限り、それはパトラではなく、カレンだったのでした・・・・・・

 

 

まず、前半の印象は「小島正樹さん・国外バージョン」といったところ。たたみかけるように起こる事件。そして、数奇な過去の伝説に彩られた孤島。

読み進めるうちに「横溝正史さんの皮をかぶった三津田信三さん」かなと思い、結果「カーの皮をかぶったクイーン」ではないか、と。

そう、探偵役の涼の知性、論理性は、クイーンだと思うのです。

ただ、いかんせん、背景となっている物語と、名探偵の推理による解決のバランスが「推理」にかたよっているかな、と。このバランスが絶妙なのが、市川憂人さんの「マリア&漣」シリーズだと思うのですが。

 

ファンタジーファンにとっては、プロローグの「つかみ」は秀逸。ローズマリー・サトクリフなら、この数十ページをネタに、ファンタジー3部作が書けるでしょう。ただ、ファンタジーマニアにとっては、つっこみどころも多々ある。エルフの起源に関する設定とか。

 

ただ、読んだ人たちの採点は辛いですね。レビューも、辛口が目立ちます。ただ、辛口レビューのいくつかは、誤解に基づくもの。あと、作者の仕掛けたレッドヘリングに気づかなかったゆえに、「無駄な遺体の装飾」などという勘違いな意見もある。あの場所で、わたしは、まんまと「赤いにしん」を追いかけ、ケルトではなく「大アルカナ」が裏に?と作者の術中にハマったのですが。

惜しむらくは、シオンとパトラをのぞいて、キャラが弱いです。

 

作者さん、本業はお医者さま。どうりで、帚木蓬生さんを思わせる端正な文章です。本業がお忙しいようなので、続編は無理かな。