深水黎一郎さんの「テンペスタ」(幻冬舎文庫)

 

賢一は30代の独身男。東京で気ままに美術の非常勤講師をしています。

そこに実弟からの頼みごと。1週間、留守にするので、その間だけ小学生の娘ミドリを預かってほしいとのこと。子どもを持ったことのない賢一は、戸惑うものの、内心、楽しみでもある。ディズニーランドに行こうか、それとも、などなど心づもりもいっぱい。

東京駅に現れたミドリは、それはもう、すっごくかわいい「ザ・美少女」。ところが、いきなり北千住に行きたいと言いだします。なぜに、そんなマイナーな、と思って、尋ねてみると、北千住には有名な心霊スポットがあるから、とのこと。そして、はじまる霊感スポット巡り。さよなら、ディズニーランド。唯一の観光地っぽい場所は東京タワー。しかし、ミドリの目的は、タワーではなく、かたわらにひっそりと設えられた祠。

それでも知らずのうちに、ミドリの自由奔放な「わがまま」を楽しんでいる賢一。

しかし、名残り惜しくとも毎日は過ぎていく。

そして、ある日、ついにあることが起こります。

 

 

「美人薄命」のときも「深水黎一郎さん、どうしたの?」と思いつつ読んでいたら、!!!でしたが、今回も序盤は「深水さん、大丈夫?」な展開。

独身男と美少女の一週間なんて、ありふれたテーマですよね。

しかし、これが、実におもしろい。そのへんの自称ユーモア作家さんたちには、これをお手本にしてほしいです。あるレビュワーさんが「日常描写の連続なのに飽きさせない」と絶賛していました。

 

ただし、勢いよく、笑い飛ばさずに、じっくり読んで欲しいのが、序盤から中盤までの日常描写。

読み返せば、あるわあるわ、伏線オンパレード。

 

そう、どんなミステリーかは言えませんが、ミステリーなんです。

 

深水さん、けっこう、お書きになるのが早く、大好きな作家さんなのに読めていない本がいっぱい。

でも、これだけ、しかも、いろいろなパターンを書きながら、すべて高水準なのはすごい。めまぐるしく変わる作風の妙。デビュー作「最後のトリック」より、「ミステリーアリーナ」のほうが、今でも高評価なんですね。

 

また、バリ本格ミステリーも書いていただきたい作家さんです。

 

ただ、惜しむらくはこの「テンペスタ」。文庫の書影が・・・・・・