警告! ムナクソ悪い書評です。しかし、作品は、傑作。熟慮の上お読みください。
姫野カオルコさんの「彼女は頭が悪いから」(文藝春秋)
広尾のエリート公務員住宅で生まれ育った翼。
横浜と言っても田舎の風情が残る住宅地で生まれ育った美咲。
中学生の頃、ふたりの距離はそれほど遠くないはずでした。「身分的距離」は。しかし、やがて、一時でも「恋人」となるお互いをふたりはまだ知りません。
やがて、翼はストレートで東大の工学部へ。美咲は、昔の「お針子学校」の延長のような偏差値が低い女子大へ進学。あるイベントで、二人は知り合い、急速に恋に落ちます。いえ、落ちたはずでした。
なのに、1年もたたないうちに、ふたりの名まえはネットを炎上させます。「低偏差値オンナに罠にかけられた気の毒な東大生」と「大騒ぎして東大生の未来を台無しにしたビッチ」という立場で。
祖母の習い事仲間の姪と知り合った翼。アメリカ人の妻をもつ兄がいる姪に、翼は惹かれ、美咲への気持ちは急速冷却。あげくのはて、東大のいわゆる「ヤリコン」(女子と性関係を結ぶことだけが目的)仲間5人の飲み会に美咲を呼んだのでした。その結果は・・・・・・
実際の事件をもとにした小説。
ポイントは、翼たちが逮捕された罪状が「強姦」ではなく「強制わいせつ」だということ。そう、美咲は5人にレイプされたわけではない。それ以上のことをされたのです。
レイプはもちろん、問題外ですが、少なくとも相手を「生物」として扱っている。しかし、美咲の受けた仕打ちは・・・・・・
いろいろ、考えさせられるところがあります。
翼が惹かれた「上流階級の姪」の兄の妻は、アメリカ人といってもヒスパニック。姪曰く「有色人種と結婚するWASPなんていない」。ここにも、ひとつの壁があります。
加害者5人の、逮捕されたことへのダメージの落差。
「200万円? 安いもんじゃないの」と、美咲の代理人からの申し出を、鼻で笑える母親がいる一方で・・・・・・
ただし、もちろん、これは東大生の中でも、ほんのひとにぎりの異常な人たち。
読んでいて嫌な思いになりますが、ある種のイヤミスのような「からっぽさ」はかけらもありません。
そして、間違いなく傑作です。