灰原薬さんの「応天の門」(バンチコミックス)

 

平安時代の初頭。

皇族の血をひく在原業平は、渋い中年の、それはもう良い男。その夜”も”ある貴婦人の夫の不在中に密会。帰る途中、応天門の上で、不思議な青年が書を読んでいるのを見かけます。従者たちは、「小鬼だ」と大騒ぎ。

無理もないことで、京ではこのところ、連日、若い下女たちが失踪。鬼の仕業だと、大騒ぎになっていたのでした。

ただし。歯牙にもかけない業平。そう、彼は、徹底した現実主義。鬼なんて信じていない。実際に、本物を目にすれば別ですが。皮肉にも、権少将である業平に、にわかに招集が。それもまあ、大騒ぎになっている鬼の件をなんとかしろと、幼帝から直々のお言葉。

しかし、別の部署の役人が「鬼さわぎ」の犯人をとらえたという。紀長谷雄という下級貴族。その知人として、いっしょにいたのが、昨夜、応天門の上で書をよんでいた青年。菅原道真でした。彼は、業平に輪をかけた超現実主義者で、しかも論理的。その上、世渡りをしづらくしているのが「筋のとおらぬことは好みません」という真っすぐな性格。

ふたりは、成り行き上、いっしょに「鬼事件」の真相を探ることに。

 

 

これも「キングダム」同様、見逃していたマンガ。

歴史は好きですが、平安時代の初期は、いろいろムズイ。その上、タイトルから「応天門の変」を描いた謀略ものだと思っていたのでした。あの事件のみを、こんなに長く描いて、退屈じゃないわけがない、と。

 

ところが、フタをあけてビックリ。

まさか、連作ミステリーだったとは!

歴史ミステリーと言っても、過去の事件を推理するのではなく、過去におこった事件を同時代人が推理するタイプ。

 

業平は、ワトソン役というより、もうひとりの探偵役。

探偵役が2人というと、霧舎巧さんの「開かずの扉研究会」シリーズを思い出しますが、雰囲気も似ている。ダンディで饒舌な業平(時として、本当に、しょーもなく無駄にかっこいい)が鳴海さん、寡黙で知力底しれず、ふつうだったら一匹狼になりそうな道真が後動さん、といった感じです。対立するのではなく、協力しあう。やがて道真クンの推理炸裂。

道真くんのすごさは、あの時代の限られた文明で、可能な限りの「利器」を生みだすところ。

 

歴史考証の正確さもみごと!

よく不満だったのが、平安時代にはいるや、男は直衣、女は十二単を着て、屋敷は寝殿造り。これ、オオウソ。平安時代初期の風物は、作者さんも説明しているとおり、ほとんどが、中国、それも唐のパクリ。

ただ、作者さん、「当時の貴族の女性は一カ月に一回しかシャンプーしなかった。臭いので、香をたいてごまかした」という事実は、ばらしてくださらなくても良かったかも。