葉真中顕さんの「ブルー」(光文社)

 

これは、平成元年に生まれ、令和に代わる前日になくなった青年ブルーの物語。

平成15年のクリスマスイヴ。青梅で起きた教職一家の惨殺事件。犯人は、明白。31歳の次女、夏希。教師一家の中で、彼女だけが教師にならず、中学時代から引きこもっていたのでした。聖夜、なぜ、彼女は暴走し、家族を皆殺しにし、あげく、自らは心臓麻痺でしんだのか。本棚に並ぶマンガは「ホットロード」。まるで、昭和が凍結されたかのような部屋。

と、大問題が。現場に残された正体不明の指紋と頭髪。だれか、未知の人間がいた? しかも、憤然と警察に抗議にきたのは、中学の時、夏希と神社の巫女のバイトをしたという女性。バイト期間終了後も、彼女は一度だけ、都内のレストランで夏希と会ったという・・・・・では?

解決に向かうと思われた事件は、迷宮入りに・・・・・

そして、15年後。今度は、多摩ニュータウンで似た事件が・・・・・今度の被害者たちは、自分たちのむすこを虐待死寸前においこんでは、その写真を児童ポルノ愛好家に売りつける鬼畜のような夫婦でした・・・・・

 

 

ほんとうに、読むのが辛い話。

貧困がテーマと書いているレビューしているものが多いですが、「貧困でなくても、かれらのたどった運命はかわらなかった」でしょう。どうしても「人間としての魂」を持って生きることのできない人たちがいるのです。つねに、他者を支配し、攻撃しなければいられないひとたち。

 

印象的なのが、「まりあ」と「あずみ」というふたりの少女の鮮やかな対比。ふたりは、おなじ売春組織にいて、他の少女たちとも同居。あずみはほんとうに、なぜ賢く、強く、まけなかったのか。ブルーに、短期間だけだけど「ほんとうの家庭」をくれたのは、あずみと、仕事仲間の日系ブラジル人青年マルコス。マルコスのブルーへの思いも、とてもせつない。

 

「引力」と「せき力」の問題も、深く考えさせられます。ほんとうに、福祉や行政の援助を必要としている人にかぎって、公的な援助の手をふりほどき、社会のダークサイドへ身をおいてしまう、という話。これ、よくわかる。「公的な援助」は、複雑な手続きが必要だったり、周囲の人々に「恥ずかしい状態」を晒してしまったりすることをも意味するからです。

 

ミステリーとしては、簡単で、犯人も速攻わかる。

ので、わたしは、他の謎を追求して読みました。

 

この「小説」を「書いた設定になってるのはだれ」なのか。

これには、びっくり。あのひとが書いたからこその、この物語。

 

重いけど絶対に読むべき作品かなと思います。