福澤徹三さんの「侠飯3 怒涛の賄い篇」(文春文庫)

 

  渋川卓磨は闇金で働く若い男。闇金の背後には「串刺連合」という「悪事の元締め会社」があり、そこの幹部、荒柿が実質上の卓磨のボス。

  卓磨はヤクザの娘、綾子がうんだ子で、祖父とは絶縁状態、貧しい母子家庭で育ちました。現在の趣味は貯金。一刻も早く非合法な商売から足を洗って、まともな事業を起こすつもりです。

  そんな卓磨にある日、串刺連合から呼び出しが。再開発の邪魔になっているヤクザの事務所を地上げしてこいというのです。そのヤクザの組長とは、なんと、卓磨の祖父、渋川伊之吉。卓磨はいやいや、祖父のもとへ向かいます。  

  たどりついたのは、和風の大きな家。しかし、贅沢なつくりではなく、平屋でただ広いだけ。暮らしぶりも貧し気です。伊之吉に会った卓磨は血縁の情に訴えようとして、みごとに撃沈。行儀作法に関して説教されたあげく、行儀見習いとして組に入れられてしまいます。卓磨の主な仕事は、炊事。しかし、一人前の予算はわずか300円。頭をかかえる卓磨のもとに助っ人が。客分として泊まりに来た傷のある男、柳刃と、口髭の若者、火野でした。ふたりは、賄いの一切を引き受けます。そして、ひとり300円の壁を軽々とクリア。毎食出てくる、垂涎の料理の数々。

  感動した卓磨は柳刃に弟子入り。修業はきびしいけど、理不尽なものではなく、やりがいを感じる卓磨。しかも、伊之口についている看護師、梨江がかわいいことこの上ない。 幸せな卓磨です。

  そこで、はっと我に返る卓磨。自分は地上げの件を何とかしなければならないのでは・・・・・・・?

 

 

  ここ数日のブログを読みなおして、気づきました。ブックレビューは、このところず~っと、ミステリーが続いている。まあ、それだけ、今年はおもしろいミステリーの新刊や、文庫化が多いんですけど。

  このあたりで、一般エンタメの記事を、ということで、またもや「侠飯」シリーズです。会社に1巻めを持ちこんで同僚に貸したところ、他にも貸し出し希望者が何人も現れて、「早く先を読むよう」せかされている現状です。

 

  3巻目にもなってくると、マンネリ、ネタ尽きの状態なのでは?と疑うところですが、今回も絶好調でした。柳刃、火野の正体が読者にばれている状態で、これはけっこうすごいです。

 

  今回の主人公、卓磨は1巻の良太、2巻の順平とくらべると、格段に好感度の落ちる人物。第一章の、借金取りたての場面、債務者が期限内に借金を払おうとするのを邪魔するシーンで、たいていの読者は応援する気ゼロになるはず。背後には悪の組織「串刺連合」がついている上、目当ての「渋川組」は老人だらけのヤクザ。地上げなんて簡単に思えそうなのですが、そうはいかないのが面白いところ。

 

  それにしても、出てくる料理があいもかわらず美味しそうなこと。今回は、メニューに関してたずねる人物がいないので、詳しいレシピがわからないのがちょっと残念ですが。

  牛バラ肉の薄切りを甘辛い出汁で煮たところに白ネギと揚げ玉を散らした「肉吸い」。卵かけごはんとセットで食べるとのこと。鶏肉とトッポギを辛く炒めた「火の鶏」。などなど。

  いくらなんでも飯テロ部分が続きすぎて、飽きてきたかなと思ってきたところで、卓磨に大ピンチ到来!

 

  柳刃と火野が何のために渋川組に来たのかはラストでわかりますが、それ以前に読めてしまう人が多いでしょう。でも、それは小説の面白さを損なうものではありません。

  ほんのちょっとですが、前巻の主人公、順平たちのその後がわかるのもうれしい演出です。さて、作品中で、卓磨と梨江が最後に食べた、ずば抜けておいしい御馳走とは何でしょう?