天野純希さんの「破天の剣」(ハルキ文庫)

 

   戦国時代の武将、島津四兄弟の末弟、島津家久の物語です。

   大名、島津貴久の四子として生まれた家久は、兄弟の中でひとりだけ腹違いの子。幼いころは、知勇兼備の祖父、島津忠良にあずけられて育ちます。

   初陣での抜け駆けの罰として3年間の諸国武者修行に出された家久。このとき、北九州の名将、鍋島信生(鍋島直茂)と出会います。

   帰国後、水軍を使って、次兄、忠平(島津義弘)の危機を救うなど、次第に戦いの場で頭角をあらわしていきます。

   北九州の雄、大友宗麟との決戦、耳川の戦いでは、300の兵で、3万の大友軍が攻め寄せる高城を守り抜く働き。

   そして、家久の一大舞台、竜造寺隆信との決戦、世に言う沖田畷の戦いのときが迫っていたのでした・・・・・・

 

 

  島津四兄弟、中でも家久が大好きです。

  島津家久の名を知ったのは、井沢元彦さんの歴史ミステリー「葉隠 300年の陰謀」で。冒頭に、沖田畷の戦いのシーンがあるのですが、そこに登場する家久がすごく印象的だったのです。

 

  さっそく「信長の野望 天翔記」を買ったのですが、ゲームの家久は見事な脳筋キャラでした。その後、このシリーズでのステイタスも見直され、最近の作品では知勇兼備の名将として登場します(ただし、政治力は底辺に近いです)。

 

  「破天の剣」は、主人公は一応、家久ですが、他の兄弟、義久、義弘、歳久のエピソードももれなく描かれていて、島津四兄弟について、そして島津家の興隆について、詳しく知ることができます。

 

  ほほえましいのが、島津義弘の愛妻家ぶり。3人目の妻にあたる苗とは、なんと恋愛結婚。義弘に限らす、他の兄弟たち全員が側室を持たず、正室ひとりをたいせつにしているところが好印象です。特に、義久には女子しか生まれていなかったので、ふつうなら側室をおくところなのですが。

 

  おもしろいのが、島津家家臣、山田有信。ゲーム「信長の野望」では勇将として登場するのですが、本書では、ヘタレの文系青年武将として初登場します。ところが、家久とともに転戦するうちに、心ならずも戦上手な名将となってしまいます。本人の微妙な葛藤が、笑いを誘ってしまいます。

 

  本書の読みどころは、なんといっても第4章「軍神」。沖田畷の戦いが描かれます。対する竜造寺隆信は経験豊かな名将。配下には鍋島直茂がいます。籠城戦ではなく、野戦で、5千対3万の兵力差でなぜ竜造寺軍に勝てたのか。緻密な戦術と、迫力ある戦闘シーンが繰り広げられます。 

 

  最後、家久の本当の夢が明らかにされたとき、おもわず、ほろりとさせられます。けっして、戦好きなだけの武将ではなかったのですね。

 

  ちなみに、家久の息子が、関ヶ原で義弘を逃がすために、みごとな捨てがまりをみせた豊久です。豊久は今では、平野耕太さんのマンガ「ドリフターズ」の主人公として、有名になりつつあります。

 

  いつか、この「破天の剣」を前半の原作にして、大河ドラマで「島津四兄弟」をやってくれないでしょうか。