魯迅の『髪の話』(1920)という短篇を読んだ。

 

 

魯迅の家に先輩のN氏というのが訪ねて来て、主に辮髪について一方的にしゃべりまくる。だが、どうも(よく調べてはいないのだが)N氏というのはその閲歴などから推測すると魯迅の分身ではないかと思われる。

 

 

 

大変おもしろいので、一部引用する。

 

 

数年たつうちに、ぼく(N氏=魯迅?)の家もすっかり落ちぶれて、何か仕事を見つけんことには飯が食えなくなったので、止むをえず中国へ帰って来た。ぼくは上海へ着くなり、カツラの辮髪を買った。当時の相場で二円だった。そして、それを着けて家へ帰ったんだ。母は何も言わなかったよ。しかし、他の連中は顔を見るなり、まっ先にこの辮髪の研究をはじめた。そして、それがカツラだとわかると、フンと鼻で笑って、断頭罪に該当すると言いやがるんだ。親戚の一人など、お上に訴えようとさえした。もっとも、後になって考え直して、ひょっとすると革命党の謀反が成功でもしたらまずいと思ったものだから、中止したがね。

 

 

魯迅(?)も日本留学中は辮髪を切っていたのだが、中国に帰ったときにはさすがに心配でカツラを買ったというのがおもしろい。

 

 

清朝の絶頂期とは違って、辮髪を切ったからといって死刑にされるような重罪ではなくなっていたようだ。第一、宣統帝溥儀自身が辮髪でなかったのだから、推して知るべしである。

 

 

それでも何かと世間体が悪いということなのだろう。

 

 

「魯迅の骨は石より硬い」と言ったのは郭沫若だったろうか(ちがうかも)、その硬骨漢たる魯迅でさえ、辮髪を否定するには恐る恐るであったのだ。

 

 

 

 

だから、私たちはマスクをしていることを恥に思う必要はない。←そこか! ポーン