うたた寝から目覚めたばかりの

ぼんやりとした時間は、

ある意味、贅沢だ。


夢の余韻を味わう

崇高な時でもある。


そういう時は、

ミッキーとも繋がりやすくなる。



桜の開花が

平年よりも早まって、

もう満開になっていた。


雨雲の切れ間の

晴れの午後に見た桜に、

ミッキーの面影を

重ねて見てたからかもしれない。



彼と過ごした10年前のことを、

ありありと思い出した。

まるで、ついこないだの事のように。



あの日、彼を車椅子に乗せて、

買い物に出かけた。


車椅子を押すのは、

初めてだったかもしれない。


行き交う人が、私たちを避けていく。

それが、なんとなく

特別に思えた。



同じように

車椅子を押して歩いている2人組と、

狭い通路を譲り合って、

会釈してすれ違った。



しばらく経ってから、

ミッキーがちょっと不機嫌に言った。


「もっと隅っこ通ってよ」


彼は私が、

通路の真ん中を歩いてたのが

お気に召さないようだった。


「歩く人の邪魔になるでしょ」


そうか。

彼はそういう視点になるのか。


私は彼の乗った車椅子を、

まるで玉座のように思ってた。


私の大切な

ミッキー様をお運びしている。

そんな感じ。



でも、乗ってる側のミッキーは、

居心地が悪かったみたいだった。


通り過ぎる人みんなに、

ぺこぺこ頭を下げていた。



「車椅子だから許される」

という概念を

彼は持ち合わせてないのか。


それとも私が単に

非常識な人間なのか。


当時はそんなことを思った。



だけど今になって思い返すと、

彼の謙虚な生き方を表すエピソードとして

私の中に残っている。