葬儀を終えた翌日。
彼の叔母とともに、彼と母親が住んでいたアパートへ荷物を取りに行った。
二階にある彼の部屋には、これまで数回しか入ったことがなかった。
仕事がらみの書類や顧客の個人情報が詰まったファイルがそこかしこにあって、特別な理由がない限り中に入れてもらえなかったからだ。
「ここも近いうちに片付けんといかんね」
叔母が寂しそうに言った。
「ミキの使いよったもので、ルーシィの思い出のある品が、この中にもしあったら、今のうちに持って帰ってえいよ」
「ありがとうございます」
「しばらくは仕方ないろうけど、やっぱり、なるだけ早よう、あの子の事は忘れた方がえいと思う」
私はその言葉に抵抗を感じながら、目を伏せた。
「今こんなことを言うのは、まだ早いかもしれん。でも次またいつ会えるか、わからんき言うけど。
ルーシィは、まだ若いし。これから先の人生も長いき、どうか自分の人生を生きて、ね」
叔母は、そう言い残し、私の肩をポンと叩いて、部屋を出て行く。
彼女なりの気遣いであることは、充分わかっていた。
けれど、まだ彼がいなくなったことすら受け入れられないのに。
彼女の言葉は、まるで私たちを引き裂こうとする呪いの言葉に聞こえた。
彼のすべてを、一つ残らず覚えていたかった。
自分が知り得なかった彼の部分も、全部。
一人部屋に残された私は、彼が暮らしていた空間に身を置いて、彼の軌跡を感じ取ろうとした。
本棚に並ぶ背表紙を、順に指先で触れ、気になるタイトルの本をパラパラとめくってみる。
そのページの間から、一枚の折り畳んだ紙が舞い落ちた。
拾い上げてみると、紙に印刷された集合写真だった。
彼の流れるような文字で、日付けと横文字が書いてある。
たしかこの年は、フロリダでアンソニーロビンスのワークショップを受けたと言っていた。
その時のものなのか、写真に写っている人物は、みんな笑顔がはちきれんばかりだ。
手には、それぞれが自分の目標らしき言葉を綴ったプレートを持っている。
彼もその中に写っていた。
その手には、
「結婚したい!」
と力強く書かれたプレートが掲げられていた。
胸が熱くなった。
「恐怖症とか言って。
本当は、結婚したかったんじゃん」
もっと早く彼と出逢っていたら、どんな人生が待っていただろう。
もっと早く、彼の本音を知っていたら。