アンジェル様から巫女を引き継いだ次の日、早速おめでたいニュースが舞い込んできました。
初めてのお仕事です!!
「大丈夫ですよ、ゆっくり深呼吸して…吸ってー、吐いてー…」
「ありがとうございます…ちょっと落ち着いてきました…。そういえば、アンジェラ様はまだいらっしゃらないのですか?」
「えっ??」
妊婦さんは疑いのないクリっとした目で私を見上げる。
「あ…あの、昨日アンジェラ様から引き継ぎがありまして、私が新しい巫女になったんです」
「えっそうだったんですね!マリリンさんいつもお手伝いして下さってたので今日もてっきりそうだと…。すみません、私ったら失礼なことを言ってしまって…」
「いえいえっいいんです!私もきちんとご挨拶しなかったので…」
「でもよかったですね。いつも熱心にお手伝いされていたのを見ていたので、私までうれしいです」
「そんな…ありがとうございますっ…」
妊婦さんに気を遣わせてしまいました…巫女失格です。
アンジェル様は長年巫女を務められていたお方。国民の皆さん、特に女性はアンジェル様に全信頼を置いていた。
(きっとアンジェル様に看て頂いた方が良かったですよね…私なんかで本当に代わりは務められるのかしら…)
『マリリン。あなたは新しい時代の巫女になるのよ
』
アンジェル様に言われた言葉を思い出す。
(アンジェル様のような完璧な巫女様じゃなくても…私らしく、私だから出来ること……)
「───実は、私もついこの間出産したばかりなんです」
「えっそうなんですかっ??」
「はい♡初産だったので、それはそれはもうとっても緊張してました」
「…………」ゴクリ
「でもその時、アンジェル様が教えてくださったのです。私の手を握って、『大丈夫。母は強いのよ。シズニ様は越えられない試練は与えない』って」
「っ」
「アンジェル様のその言葉がスッと心に降りてきて、このお腹の中にいる子のお母さんになるんだって思ったらどんな痛みも耐えられるって急に強くなれた気がしたんです」
「…そうですよね。私も、この子のためなら…」
妊婦さんは自分のお腹を愛おしそうに撫でる。
「これから生まれてくる子とうちの子は同級生ですね♪困ったことがあったらお互いに相談し合いましょうね!」
「はい是非!近くに経験された方がいると心強いです。マリリンさん、ありがとうございます」
妊婦さんの笑顔を見て心が晴れて行くような気がした。
「おめでとうございますっ!元気な、元気な女の子ですよ…!」
「っ…私の、赤ちゃんっ……」
涙ぐみながら小さな赤ちゃんを抱きしめる妊婦さん…いや、お母さんを見て一気に張り詰めていたものが解かれて涙が溢れてくる。
「よかった…本当によかったですっ…」
あれは、私が成人したばかりの頃…ママの計らいでベドフォード家の出産を見学させてもらった時のこと。初めて見る命の誕生に、とても感動したのを今でも鮮明に覚えている。
あの時自分の夢を確信した。
「マリリンさん、この子はマリリンさんがとりあげた初めての赤ちゃんですね」
「っ」
「マリリンさんが立ち会ってくださってとっても心強かったですよ。改めてありがとうございました」
ぐすっと鼻水をすすって、涙をゴシゴシと拭く。
「───私、今日のことを一生忘れません。つたないことばかりでしたが、こちらこそ本当にありがとうございました…!」
巫女になって本当によかった。
「「「マリリンせんせー、おはよーございます!」」」
さて、今日はナトル学舎で初めての授業です!
子供達がキラキラした顔で私の話を一生懸命に聞いている。その顔が自分の幼い頃と重なって見えた。
(アンジェル様の授業の時も、私もこんな風にお話を聞いてたのかな…。なんだかついこの間のことのよう)
私がこの学舎で夢を見つけたように、この子達にとっても何かきっかけを与えられたらと思いながら授業に臨みます。
(巫女って本当に素晴らしいお仕事…!)
充実感に満ち足りながら家路を辿っていると、男性が私を見つけて急いでこっちに向かってくる。
「っいた!マリリンさん!神官様がお呼びですよ!」
「っ!は、はい!(この方は、神官様のお付きの人!)」
お付きの方に着いて行った先は、あるお宅だった。
一つの命の灯火が、今静かに消えようとしている。
シズニの仕えとして、ガノスへ送り出す…巫女にとって大切な仕事のうちの一つ。
(泣いてはだめ。堪えるのよマリリン…!!)
「大丈夫か?フラフラじゃないか」
「ああ…大丈夫だよ、ホセバ」
「辛いかもしれないけど、しっかり食べて体を休めないと」
「…………」
「…それではまた明日、シズニ神殿でお待ちしております。失礼いたします…」
「いえ……はい。本当に至らぬことばかりで……」
帽子からわずかに見える口元がニコッと微笑んで、静かに首を振った。
「いつまでもその気持ちを忘れないで欲しいんだ。私達はこのエルネア国民の中でシズニの神に最も近い者。でも決して神ではない」
「っ」
「マリリンくんには、国民の皆に寄り添える優しい巫女であってほしいんだ」
「っはい!」
ホセバ神官の背中を見送る。とても偉大な大きな背中。まさしく選ばれしシズニを導く者。
「っ」
ぺちぺち!と両手で頬を叩く。
(しっかりしなきゃマリリン!巫女の道ははじまったばかりですよ!)
「マリリンちゃん、昨日はよく眠れなかったみたいだったな…僕が少しでも力になれたらいいんだけど…」
「むにゃ…おいしそう…私も食べたいですぅ…」
「…ふふ!よーし、明日は腕をふるって美味しいものをたくさん作ろうかな!ゆっくりおやすみ、マリリンちゃん」
その日、奏女時代の夢を見ました。ベルナルダンさんのお部屋にお邪魔して、ベルナルダンさんの料理がテーブルにいっぱい並んでるんです!
懐かしく、とても幸せな夢でした♡
『ハカセ』ことミハイルさん…いえ、『ミハイルさん』ことハカセのお家に赤ちゃんが誕生しました!おめでとうございます!!
「まさかマリリンくんに我が子をとりあげてもらうなんて、不思議な巡り合わせだなぁ」
あのハカセが、赤ちゃんを抱っこしています!
「マリリンくんは小さい頃から巫女になりたいって言っていたよね。あの時のキラキラした顔、今でもよく覚えているよ」
「ふふ!ミハイルね、子供の頃の話しをよくしてくれるの。小さい頃仲の良かった女の子がいたって。まさかその女の子がマリリンさんだったなんてね!」
「まぁ…♪」
「小さい頃の夢を叶えたマリリンくんは本当にすごいよ!そんなマリリンくんに今日立ち合ってもらえてよかった!ありがとうマリリンくん!」
「そんな、私の方こそ…っありがとうございました!」ぺこりっ
ハカセ、私もあの日のこと忘れません。初めて自分の夢を語ったあの日。あの時ハカセが応援してくれたから今の私がいるのです。
私の夢はまだまだ始まったばかり。これからも応援していてくださいね!
ハカセの奥さんはちびマリリンが目撃したデートのお相手の方でした!無事にゴールインしてたんだね(^^)
年が明けて341年ーーー。
巫女として新年祝賀に参加しました。
国王様がこんな近くにいらっしゃるなんて、緊張で汗をかいてしまったのは内緒ですよ?
ナトル学舎でも新年度を迎えピカピカの一年生達がたくさん入学しました♡
「今からうん年前、皆さんと同じように可愛らしい女の子がこのナトル学舎に入学しました。ふふっ…♪(可愛いらしい、だなんてちょっと欲張りすぎでしょうか?)」
「マリリンせんせー?」
「コホン。その女の子は毎日楽しくて仕方ありませんでした。魔銃導師さんの怖くて近寄れない遺跡でのお話。山岳兵団長さんの山岳兵団の村のお話。農場代表さんのラダのチーズの作り方のお話。近衛騎士団長さんのこわ〜いモンスターと出会ったお話。神官と巫女さんの太陽と月の神のお話。小さかった自分の世界がどんどん広がっていくのです!」
私はこのナトル学舎で学び、巫女を志すようになりました。子供達にもエキスパートの皆様からたくさんお話を聞いて学んで、夢を見つけてほしいのです。
「皆さんも、明日からこのナトルの学舎でたくさん学びましょうね!♪」
「「「はーーい!」」」
未来あるこの子達に、光を与える存在でありたい。
「まあっ!なんと見事なっ…おせちがパワーアップしております!!」
「ん〜?これがどうかした?」
「ふふ!私にとって、ベルナルダンさんとおせちは切っても切り離せない関係なのです!♡」
「え〜?変なマリリンちゃん」
☆☆☆
詰め込みすぎたけどホセバさんがかっこいいから良しとしよう。