【琉球新報】2016年3月24日 19:19
<沖縄基地の虚実3>九州拠点が効率的 「強襲揚陸作戦」の足かせ
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-244846.html

ホワイトビーチに入港した佐世保基地所属の強襲揚陸艦ボノム・リシャール(左)とドック型揚陸艦グリーンベイ=2015年8月28日、うるま市勝連のホワイトビーチ

  日本周辺にある「潜在的紛争地」について、政府はこれまで朝鮮半島と台湾を挙げ、沖縄の米海兵隊はこうした事態に対応する「抑止力」であり、沖縄は駐留地 として地理的優位性を有していると強調してきた。まず北朝鮮をめぐってはミサイル問題が注目されているが、ミサイル攻撃を迎撃するのは主に空軍、陸軍だ。 またミサイル攻撃に対するカウンターミサイル反撃は主に近海を航行する潜水艦などが行い、これは海軍が運用する。では陸戦部隊である在沖米海兵隊が、朝鮮 半島有事の際にどう動くのか。

 かつて在沖米国総領事を務めたアロイシャス・オニール氏は退任後のインタビューで、在沖米海兵隊の有事対応についてこう述べている。
 「佐世保(長崎県)の強襲揚陸艦が海兵隊員を拾った上で、例えば朝鮮有事に送る」
 強襲揚陸艦は有事への対応に際して兵士、物資、戦闘機、ヘリコプター、水陸両用車などを載せ、沿岸部から内陸への侵攻を行う米海兵隊の主要任務である 「強襲揚陸作戦」を支える重要な基盤だ。在沖米海兵隊と行動を共にする強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」は佐世保を母港とする。
 この強襲揚陸艦を伴い在沖米海兵隊が朝鮮半島へ向かう場合、まず佐世保からうるま市ホワイトビーチへ30~32時間をかけて南下し、牧港補給地区から物 資、キャンプ・ハンセンから兵員、普天間飛行場から航空機を艦上に載せ、再び朝鮮半島へと北上する。つまり一刻を争うはずの有事に南下と北上を繰り返す非 効率な「回航問題」が生じる。
 在日米軍の動向を監視している市民団体「リムピース」の篠崎正人編集委員によると、強襲揚陸艦がホワイトビーチから朝鮮半島の韓国釜山へ向かう場合、移 動時間は通常だと35~40時間かかることになる。佐世保から沖縄への南下、朝鮮半島までの北上を合計すると、現地到着までに約70時間を要する。一方、 佐世保から直接釜山へ向かえば、到達時間は8~12時間で済む。米海兵隊の駐留地について沖縄の「地理的優位性」を主張する言説に対し、県などが「九州な どの方が軍事的に効率的だ」と反論するゆえんだ。
 そもそも在沖米海兵隊の即応部隊である第31海兵遠征部隊(31MEU)はこの強襲揚陸艦に乗り、1年の約半分は洋上で巡回展開している。その行動範囲は西太平洋、東南アジアと定められているが、最近はオーストラリア東海岸まで出向くことも増えた。
 仮に朝鮮有事が発生すれば、その展開先から現地へ向かうことになり、拠点を沖縄と日本本土のどちらに置くべきか、という議論とは比べものにならない距離を日常的に移動している。
 「九州などの方が近い」という地理的優位性に関する議論を受け、政府は近年、沖縄は潜在的紛争地に「近い(近過ぎない)」という説明をするようになって いる。2011年、防衛省が冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」を発行したことを受け、県が質問状で沖縄の「地理的優位性」の根拠を防衛省に質問 し、寄せられた回答だ。国は現在行われている名護市辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐる代執行訴訟でもこの見解を主張している。
 県は国が主張する「近いが近過ぎない」の概念について、具体的な距離などを示すよう求めてきたが、政府は「その時々で変わり得る」と実質的に回答を拒否 してきた。県は「検証不能で詭弁(きべん)としか言いようがない」と述べ、地理的優位性論の根拠の薄弱さを強調する。(島袋良太)





 委員会が是正指示を適法と判断すれば、県は国との訴訟の和解条項に基づき、これを不服として福岡高裁那覇支部に提訴する。違法ならば委員会は国に取り消しを勧告。国が応じない場合も、県は訴訟を起こす方針だ。(共同通信)



【琉球新報】2016年3月24日 20:46
<沖縄基地の虚実4>96年 海兵隊動かず 展開主軸は海・空軍
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-244930.html

  初となる台湾総統選を控えた1996年3月。台湾独立派の象徴だった李登輝氏の優勢が伝えられると、中国は台湾近海にミサイルを発射し、台湾海峡対岸で大 規模な軍事演習を実施するなど威嚇行動を始めた。これに対し、ペリー米国防長官(当時)は3月9日、横須賀を母港とする空母インディペンデンスを台湾近海 に派遣し、さらに同11日にはペルシャ湾から原子力空母ニミッツを増派、周辺に空母打撃群を展開し、中国側をけん制し、一気に緊張が高まった。

  中国側の台湾近海へのミサイル発射は台湾に対する圧力であると同時に、米艦船が台湾海峡に侵入した場合、それを撃沈して排除するというメッセージでもあっ たとみられる。対する米軍は空母打撃群の展開で中国に「譲らない」メッセージを送り返したが、米空母は中国軍がミサイルを発射していた海域とは距離を置き 続けた。
 この際、米軍は併せて潜水艦なども派遣した。米中危機の様相も呈したこの展開は世界中のメディアで報道されたが、「即応部隊」であるはずの在沖米海兵隊を載せた強襲揚陸艦の姿は台湾近海になかった。米軍は海軍と空軍による対応を主軸としていた。
 米海兵隊の駐留場所をめぐり、朝鮮半島有事に対応する場合は沖縄よりもむしろ九州が近いと主張されるのに対し、反論としてしばしば持ち出されるのは台湾海峡への距離だ。政府も日本の近くにある「潜在的紛争地」について、朝鮮半島と台湾海峡を挙げてきた。
 米軍普天間飛行場の移設問題に関する県とのやりとりなどでも国は沖縄と台湾の近さを引き合いに「緊急事態で1日、数時間の遅延は軍事作戦上致命的な遅延 になり得る。県外駐留の場合、距離的近接性を生かした迅速対応ができず、対処が遅れる」と主張してきた。だが専門家の間からは、台湾海峡有事の際に地上部 隊である米海兵隊が真っ先に果たす役割は、ほとんどないと指摘されてきた。
 過去に米国防総省系シンクタンク「アジア太平洋安全保障研究センター」准教授などを務め、日米関係と安全保障に詳しいジェフリー・ホーナン氏は「台湾危 機はまず海空軍の戦い。いざ戦うことになれば、それは第7艦隊(拠点・横須賀)と第5空軍(司令部・横田)だ。台湾有事と朝鮮半島有事で海兵隊がどのよう な役割を果たすのか疑問だ」と指摘する。
 では中国軍が台湾本土に侵攻し、地上戦が繰り広げられる事態はあるのか。
 軍事評論家の田岡俊次氏は、昨年11月に台湾総統府が行った世論調査で「現状維持」を望む人は88・5%で、「独立」を望むのは4・6%にすぎず、蔡英 文次期総統も現状維持を公約していると指摘。「そもそも中国が台湾に侵攻する事態はまず起こらない」と否定的な見方を示す。
 それでも仮に中国が台湾に侵攻する場合はどうか。田岡氏によると、現在の中国軍の輸送能力で渡海できるのは最大2個師団(2万~3万人)程度。一方、台 湾陸軍は20万人、さらに戦車千両余の兵力を擁する。比較して、在沖米海兵隊の戦闘部隊である第31海兵遠征部隊は同じ地上部隊だが、兵力は台湾陸軍のお よそ100分の1、約2千人だ。
 田岡氏は「中国軍が台湾陸軍を地上戦で制圧するのは不可能だ。米軍が関与するとしても、台湾近海に航空母艦を派遣する程度で、海兵隊の出番はない」と指摘する。(島袋良太)



【琉球新報】2016年3月24日 20:55
<沖縄基地の虚実5>嘉手納に絶大な力 「全米軍が撤退」とすり替え
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-244942.html

 「力の空白をつくらないことが大事だ」「米軍基地は日本の抑止力としてのプレゼンス(存在)を維持する点で必要だ」

  2015年5月、米軍普天間飛行場の地元への受け入れを拒否する稲嶺進名護市長と初会談した中谷元・防衛相は会談後、記者団にこう述べ、辺野古移設の必要 性を強調した。しかし県や名護市、多くの県民が求めているのは在沖米軍や在日米軍全体の即時撤退ではない。普天間飛行場の県内移設の見直しを求めている。 普天間問題に絡み、「沖縄から米軍が撤退すれば中国が攻めてくる」といった言説も散見され、移設問題が印象論で議論されていることは否めない。
 普天間の県内移設をめぐってはしばしば「中国脅威論」が引き合いに出される。だがミサイル能力や海軍力の強化に力点を置く中国軍を念頭に置けば、地上部 隊と連携するヘリコプターの基地である普天間飛行場ではなく、嘉手納などに拠点を置く空軍力や、横須賀などに拠点を置く海軍力が圧倒的に「抑止」の機能を 有している。仮に普天間を閉鎖しても、沖縄に軍事力の「空白」が生まれることにはならない。
 インターネット上でも、フィリピンから1992年に米軍が撤退し、その後フィリピンが中国との間に南シナ海のスカボロー礁の領有権をめぐる紛争を抱えたことを引き合いに「沖縄の米軍基地が必要」だとする主張が見られる。
 だが92年のフィリピン撤退の事例はクラーク空軍基地とスービック海軍基地の2大拠点の閉鎖をはじめ、全ての米軍が撤退したことを指す。ヘリ基地である 普天間飛行場の移設問題をフィリピンの米軍撤退と単純比較しての議論は合理的とはいえない。県などは普天間飛行場を日本本土に移設することも選択肢として 主張しており、その場合、米海兵隊のヘリ部隊が日本から撤退することにはならず、その点でもフィリピンの事例とは異なる。
 では普天間を差し引いた場合、沖縄の基地負担はどれほど残るのだろうか。
 沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)の調べによると、嘉手納飛行場と隣接する嘉手納弾薬庫を併せた面積だけで、横田、厚木、三沢、横須賀、佐世保、岩国の県外主要米軍6基地を合計した面積の1・2倍に相当する。
 佐藤氏は「普天間を閉鎖しても、沖縄はなお応分以上の負担をしている。沖縄の負担軽減要求は全く正当なものだ」と指摘する。
 機能面はどうか。オバマ米政権で国務副長官を務めたジェームズ・スタインバーグ氏と米有力シンクタンク「ブルッキングズ研究所」のマイケル・オハンロン 上級研究員が2014年に発表した共著『21世紀の米中関係』で、資産価値の高い米国外の基地に触れ、その代表例として「沖縄の嘉手納基地」に言及してい る。
 同論文は仮に太平洋地域で嘉手納基地の機能がなければ、米軍はその代わりに4~5の空母打撃群を展開しなければならないとした。さらにその費用は「年間 250億ドル(約3兆円)かそれ以上」と評価した。嘉手納基地があるだけで、年間3兆円もの費用に相当するほどの安全保障を沖縄が負担していることにな る。
 佐藤氏は「県内ですら、米軍のどの軍種にどのような役割と機能があるかがあまり理解されていない。ましてや県外では『米軍』とひとくくりにされ、ひどい 時には嘉手納基地の存在すら知らない人も多い」と指摘する。「それに乗じて沖縄に基地負担を押しとどめたい人たちが、あえて『米軍撤退』という表現を用 い、普天間問題の本質を隠している場面もある」と述べ、沖縄側からの効果的な情報発信が必要だと強調する。(島袋良太)