黄色のクレヨンで腰まである巻上を。
桃色のクレヨンでたっぷりのフリルのドレスを。
水色のクレヨンで大きな瞳の中にたっぷりの星を。
田圃の畦道でザリガニをつかまえて、真っ黒になった爪で、
何度も描いた。白いページはあっという埋まっていって何度も幼稚園の先生に新しいおえかきちょうをもらった。
耳がすべて見える短い髪を母は私に似合うと言った。小学生で身長が164センチもあった私に、背が高いからよく似合う。
はきはきして元気が良いから活発に見える。自分自身も働き続ける母は、男に頼る生き方をするな。
自分で生きていけるように。自分と子供を守っていけるようにとことあるごとに囁いた。
それでもまったく冴えない女の子がクラスの人気ものに恋をして最後は必ず恋が成就する
少女マンガを読んでは自分でも描き続けた。
古いミュージカル映画にはまった。「カラミティジェーン」「オクラホマ!」「サウンドオブミュージック」「ショーボード」「ホワイトクリスマス」に「南太平洋」「パリのアメリカ人」「雨に歌えば」「シカゴ」「キャバレー」「紳士は金髪がお好き」
どれもこれも溜息の出るような美女が陽気に歌って踊り恋に落ちていた。
「マイフェアレディ」で言葉がそのまま旋律を奏でる外国の言葉に夢中になった。
覚えたてのアルファベットで歌詞を写しては自分なりに訳して壁にはり、その言葉に励まされた。
ミュージカルができないものかと演劇部を続けた高校で、自分の理想の場所を創り出す
芝居にはまった。思い描くものが目の前で話して動き出す魅力にすっかり虜になった。
現実の世界では思い通りにいかないことも
紙に落として本にして稽古して客を呼んだら思い通りにうまくすすんだ。
消えてなくなるものを創る仕事をしたいと思った。
跡形もなくなくなってしまうものを。
物として残らないものを。
ものとして残らない、理想の仕事についたはずがつまづいた。
幕をはやくおろすように日本を旅立ってアメリカに来た。
そして。幕を降ろした先には現実があった。
思い通りに行かない登場人物。予測だにしないセリフに出来事。
心を砕いて話合えば和解するはずのラブストーリーの定石は通用しない人間関係。
今まで書き手だったのに、先がわからない舞台の上に立っている。
また筆を取らないと。
筆を取り返して新しい物語を書きあげるんだ。
今まで描いてきたのとは全く別の物語を。それでも最後は幸せに笑うエンディングを。
次の展開を。
場所を変えても、ほんとうに逃げられるのは耳と耳の間で自分が決める道しかない。
金曜日に転んですりむいた肩がひりひりと痛い夏のように気温が上がった日。
ビールを飲みながらぼんやり考えた決意の記録。