■小説■ 「海をかける馬」 -3話-
私が記憶を失う事が悪い事では無い。
そんな状況とはどういった事情があり得るかを考えようとした時、包帯を巻き終えた高谷が席を立った。
「これから説明するので、ちょっと場所を移動してもらっても良いかな?」
彼は部屋の奥から車椅子を用意すると、ベッドの横に用意した。
「ここは病室なんだ。あまり長居していても良い気分じゃないし、君の部屋まで案内するから、続きはそこで説明しよう。
車椅子は今の君はちょっと歩かせられないから、念のため」
「私の部屋? もう退院できるんですか? 今から?」
突然の高谷の行動が理解できず呆けていると、慌てて高谷が言う。
「ああ、ごめん、そういう事じゃなくて、この建物内に君用の部屋が用意されているんだ。
説明には時間がかかるから、そこへ行って説明させてほしいんだ。
ここからエレベータを使ってすぐだよ」
今の時点で質問したいことは山ほどあったが、
まずはその場所へ移動しなければならないことを理解し、
私はベッドから立ち上がり車椅子に座った。
「じゃあ、行くよ」
安全ストッパーを慣れた様子で外す高谷を見ながら、
私はここでの生活が長くなる気配を感じていた。
