~チャンミンside~
それからの事はほんの一瞬のようでいて、───ずっと僕の頭から離れない記憶になった。
「────ユノ。」
すぐに現れたその人は、ふわり、という形容詞がぴったりの可愛らしい人だった。
「昨日の夜帰るってメールしたのにどうして電話くれないの?」
可愛い顔に似合わず、いきなりの責め口調。
「あ~、・・せっかくの家族旅行なのに、悪いだろ?」
気まずそうに話すヒョン。
「だからって、メールもなかなか返してくれないし、・・ひどいじゃない!」
「うん、・・悪い。」
「ユノっていつもそう。いつも受け身で、・・今回の旅行だって私は残りたかったのに、ユノが行った方がいいって言うから。なのに電話ひとつしてくれない。」
チラッとシウォニヒョンを見たら興味深そうに観察してるし。
僕もタイミングを外して動くことすら出来ない。
「・・大切な家族との旅行を邪魔はしたくない。」
「でも、・・残ればずっと2人でいれたのに。」
さっきからヒョンと彼女さんの会話が噛み合ってない気がするのは僕だけだろうか。
ヒョンもあきらかにイライラしてる。
「それに、・・ユノのクラスの子に聞いたの。私がいくらお弁当を作るって言っても断るくせに、なんなの?後輩くんのおにぎりはいいわけ?」
え?僕?──思った瞬間。
ポロポロと泣きだした彼女。
折れそうなほど細い肩が小刻みに震える。
「─────ソヨン。」
持っていたおにぎりを傍らに置いて。
スッと寄り添った逞しい身体。
震える肩を抱き寄せる腕は、・・どこまでも優しくて。
その胸のなか、消えてしまいそうなほどにおさまる人を。
ただ見てるだけしか出来ない僕。
「な、ここじゃあ迷惑だろ?・・向こうで話そう。」
そのまま小さくなる背中を、ただぼんやりと眺めていた。
「・・・修羅場だったな。」
ポツリというシウォニヒョン。
知り合いみたいだったし、心配してるのかと思いきや、
「・・・笑ってません?」
「だって他人の修羅場ほど面白いものないじゃん?」
僕は笑えるような気分じゃなくて、シウォニヒョンに背中を向けるような格好でおにぎりを食べ始めた。
それでも勝手に喋り続けるシウォニヒョン。
「ユノさんとソヨンさんとは中学が一緒でさ、俺、元バスケ部だし。去年の学祭のチームも一緒。」
「ソヨンさんはずっとユノさんに片思いしてて、去年の今頃は別の彼女いたし、やっと春くらいかなぁ、つき合いはじめたんだよな。」
「あ、あの、シウォニヒョン!・・僕には関係ない話です。」
────だって、聞きたくない。
今でも、あの細い肩に触れるヒョンの長い指が、頭の中をぐるぐると煩いのに。
「それが関係なくないんだな、これが。」
愉快そうに笑う意地悪なヒョン。
「チャンミンのチームの女子達がすげぇ騒いでんの、全然知らない?俺の耳にも入ったし、旅行中のソヨンさんにまでご丁寧にメールで知らせたらしいぞ?」
「え?」
何のこと言ってるのか、見当もつかないけど。
まるで分かっていない僕を見て、やれやれと大袈裟に肩を竦める。
「ふ~ん?たぶん、ユノさんも気づいてないな?」
「何をですか?」
思わせぶりな口調にイライラしてつい語尾に力が入った。
「だから、・・ユノさんが新しく入った1年生男子にご執心で、アプローチがすごい、ってさ。」
「その相手がまさかチャンミンだなんて、な。びっくり、っていうか、まぁ、よく考えたら納得だけど。」
びっくりして言葉もでない。
「ユノさんの事はなんでもすぐ噂になるから気をつけな?」
シウォニヒョンの手がスッと僕の頬に伸びて。
「ふっ、────真っ赤。」
ニヤリと笑った。
