~チャンミンside~
「チャンミナ?また2人きり?」
閑散としたプールを眺めて呆れたように言うヒョン。
「いつも来る先輩が来週の月曜日からしか来れないみたいで。」
・・・あとはほぼ帰宅部状態だしね。
「ったく、いい加減な部活だな。」って、なぜか急に機嫌悪くなって、今、ちっ、て舌打ちしなかった?
───じゃあ、帰ればいい。
そう思いながら黙々と着替えて、ひとりプールサイドへ出ていく。
ひとりきりの準備運動も慣れたもので、マイペースにストレッチして、さあ、シャワーって時に足どり重くやってきたヒョン。
「来るの遅いからバスケ部へ行っちゃったのかと思いました。」
「あ~、うん。」
そんなに2人きりが嫌なら来なけりゃいいのに!!
イライラと思った事がどうも口に出てたらしい。
大股で歩いてきたヒョンがいきなり僕の手首を掴んで、──ちょっと真剣な目。
「ごめん、そんなつもりはないから。」
真っすぐに僕を見据える瞳にピクッと肩が揺れる。
「わ、・・分かりました。分かりましたから、・・えっ、と・・離して。」
掴まれた手首が熱くて。
重なるように近づいた身体の熱が伝わってしまいそうで怖い。
「・・キュヒョン、って、・・。」
「え?」
キュヒョン?って何のこと?
意味がわからず目をパチクリさせる僕の手首をそっと外して。
「いや、・・べつに。・・仲いいんだな。」って呟く。
────はい、・・まぁ、ゲーム仲間ですから。としか答えようがないけど。
ヒョンは少し眉を下げて寂しそうに笑った。
それからは結構普通になって。
広いプールになぜか隣り合わせのコースで黙々と泳いだ。
「な、50㍍自由形で競争しよ?何か賭けようぜ。」
また、言ってる。
僕、泳ぐの速くないって言ったのに。
かと言って簡単に負けたら水泳部員として恥をかくとか、ちょっとは気を使って欲しいのに。
「ほらほら?なぁ、何賭けようか。」
まったく通じてない。
「俺が勝ったら、来週一週間おにぎりね。」
「って、夏休みの応援練習は来週で終わりじゃないですか。」
夏休みの最後の週は課題テストのテスト週間で部活動も禁止だ。
「おまえが勝ったら、おにぎりのお礼のパンにコーヒー牛乳つけるってのは?」
「・・それ、結局僕はおにぎり作るって事ですか?」
────まぁな?って無邪気に笑う人に何だか僕も笑えてきて。
いいけど、・・どっちにしても作っちゃうんだろうから。
ヨーイ、ドンッ!!
年上だから自分がやると言い張ったヒョンの合図でスタート。
ほぼ並んで25㍍をクイックターン。
手の水を掻く力や足で蹴る力は、やはり数段ヒョンのが上。
少しずつヒョンの頭がでてきて。
「タッチッ!!」
最後は身体半分の差がついた。
「ハァ、ハァ、、・・ヒョン、ズルい。」
「は?なんで?」
「・・だって、バスケも巧くて、泳ぐのも速いなんて、・・ズルい。」
苦し紛れにそう言ったら、無くなってしまいそうなほど目を細めて、僕の髪をクシャクシャと撫でる。
太陽が傾きはじめて、そろそろ部活の終わりを知らせる。
僕達はプールの端、息を整えながら太陽の光を正面から受けていた。
「再来週はテスト勉強かぁ。」
「・・ですね。」
「な、・・一緒に勉強する?俺、数Ⅰくらいなら教えれるかも。」
「・・/////。」
この人って、・・どうしてこうもサラッと誘えるんだろ?
いちいちドキドキしてる僕がばかみたいだ。
「たぶん、・・・。」
「ん?」
「・・・僕の方が、賢いです。」
悔しいからつい言ってやった。
────このっ!!って笑いながら、ふざけてプールに沈められた頭。
「ぅわっ!!!」
不意打ちくらってゲホゲホむせて、ゴーグルも額にのせたまま、目が痛くて開けられない!
「ケホッ、・・ひど、ヒョン。目、痛い~っ。」
こっちは真剣に痛いのにケラケラ笑ってるヒョンが、
「どれ?見せて?」
僕の頬を両手で包みこむ。
「目、・・開けれない。」
「あ~あ、ゴーグルもくもっちゃったね。」
なぜかゴーグルをくいっ、と。
・・ホントにくもっちゃった、って思った瞬間。
ヒョンの両手に力が入って。
──────え、・・?
微かに触れた、柔らかい感触。
「やっぱ、・・コーヒー牛乳もつけるから、・・・。」
──────そう小さく聞こえた。
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わかりにくいので解説しますと、賭けに勝ってお礼なしのおにぎりgetしたヒョンでしたが、お礼のパンにコーヒー牛乳もつけるから勝ったご褒美は、・・って、チュッってしちゃったんです♪エヘヘ^^;