~チャンミンside~
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った地下の通路。
───カチャリ
書庫、と表示された倉庫のような部屋。
普段なら鍵が掛かっているはずなのに、…なにか、おかしい?
戻るんだ、──頭では分かっているのに、…不安で指先が震えるのに。
─────でも、あの真紅の羽のメモ。
今まで使われることのなかった、……あなたにあげたメモが。
そろそろと踏み入れた真っ暗な部屋で、スイッチを探して伸ばした腕。
スッ、っと背中に気配を感じて。
「…チャンミンさん。………やっと、ひとつになれる。」
キラリ、──暗闇に反射する金属の光。
******************
~ユノside~
───俺から離れるな。
ずっと、これからも、…ずっとだ。
言葉にできない願いを、なんとか呑み込んで。
「おまえのお遊びに、…あいつだけは巻き込んでくれるな。」
───違う、…と言えばよかったのか?
あいつが幼い頃から心の寄りどころにしていたであろう、…歌うこと、…その居場所を少しでも危うくしてしまうのだけは嫌だった。
────でも、傷つけた?
あんな顔が見たかったわけじゃない。
ただ、あいつの幸せそうに歌う姿がずっと見られるなら、自分の気持ちに蓋をして、諦めることも出来ると、…そう思っただけなのに。
「チャンミンは?」
とりあえず、あいつだけでも、…と玄関口に押し出して、やっと人ごみから抜け出し、ドンジュさんを捕まえる。
「…それが、…目があったはずなのに、突然反対方向に行っちゃって。…捜してんだけど、まだ見つからないんだ。」
「楽屋を見てくるからさ、ユノはこのホールで捜して。…戻ってくるなら、ここだと思うし。」
嫌な予感がして、まだ人で溢れかえるホール内を落ち着かなく歩き回る。
ふと、────中央に置かれたオブジェの袂。
────あの、…真紅の羽!
急いで手に取る。
《地下の書庫で》───なんだ?これ!
グシャッ、と握って、
─────チャンミン!!
走る息が荒い。
今の事務所の社長に拾われるまで、街で喧嘩ざんまい、そのうち自然に集まった悪ガキどものリーダーのようになって。
多少のことには動揺もしないし、騙し騙されあいは、日常だった。
───それが、この動揺と焦燥。
冷や汗が背中を伝う。
──あいつのストーカー、っていうから、勝手に女かと。
あの、…羽のメモ。
常に持ち歩いていたけど、…手元から離したのは、ただの一度だけだ。
あの日、楽屋で。
押しかけてきたモデルの子に抱きつかれたのを偶然見られて。
ひとり残された楽屋で、言い訳がましくあのメモにむかったけど、うまく言葉にできなくて、ただのゴマ模様になったよな。
その時の、…あのスタッフ。
あいつなら……!!!
───バタンッ!!!!!
「…チャンミン!!!」
一番に視界に入ったのは、そいつの大きな背中。
その奥に、壁に追い込まれるように、────チャンミン!!!
チッ、と舌打ち、手に持ったサバイバルナイフを大きく振り上げる。
最後におまえは俺を、…俺だけを見て、…確かに笑ったんだ。