紅 -クレナイ-の人(32) | えりんぎのブログ






~チャンミンside~




先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った地下の通路。


───カチャリ

書庫、と表示された倉庫のような部屋。


普段なら鍵が掛かっているはずなのに、…なにか、おかしい?


戻るんだ、──頭では分かっているのに、…不安で指先が震えるのに。


─────でも、あの真紅の羽のメモ。


今まで使われることのなかった、……あなたにあげたメモが。



そろそろと踏み入れた真っ暗な部屋で、スイッチを探して伸ばした腕。


スッ、っと背中に気配を感じて。



「…チャンミンさん。………やっと、ひとつになれる。」



キラリ、──暗闇に反射する金属の光。






******************


~ユノside~





───俺から離れるな。


ずっと、これからも、…ずっとだ。


言葉にできない願いを、なんとか呑み込んで。



「おまえのお遊びに、…あいつだけは巻き込んでくれるな。」


───違う、…と言えばよかったのか?


あいつが幼い頃から心の寄りどころにしていたであろう、…歌うこと、…その居場所を少しでも危うくしてしまうのだけは嫌だった。


────でも、傷つけた?


あんな顔が見たかったわけじゃない。


ただ、あいつの幸せそうに歌う姿がずっと見られるなら、自分の気持ちに蓋をして、諦めることも出来ると、…そう思っただけなのに。



「チャンミンは?」


とりあえず、あいつだけでも、…と玄関口に押し出して、やっと人ごみから抜け出し、ドンジュさんを捕まえる。


「…それが、…目があったはずなのに、突然反対方向に行っちゃって。…捜してんだけど、まだ見つからないんだ。」


「楽屋を見てくるからさ、ユノはこのホールで捜して。…戻ってくるなら、ここだと思うし。」


嫌な予感がして、まだ人で溢れかえるホール内を落ち着かなく歩き回る。


ふと、────中央に置かれたオブジェの袂。


────あの、…真紅の羽!


急いで手に取る。


《地下の書庫で》───なんだ?これ!


グシャッ、と握って、


─────チャンミン!!


走る息が荒い。

今の事務所の社長に拾われるまで、街で喧嘩ざんまい、そのうち自然に集まった悪ガキどものリーダーのようになって。


多少のことには動揺もしないし、騙し騙されあいは、日常だった。


───それが、この動揺と焦燥。


冷や汗が背中を伝う。


──あいつのストーカー、っていうから、勝手に女かと。


あの、…羽のメモ。


常に持ち歩いていたけど、…手元から離したのは、ただの一度だけだ。


あの日、楽屋で。


押しかけてきたモデルの子に抱きつかれたのを偶然見られて。


ひとり残された楽屋で、言い訳がましくあのメモにむかったけど、うまく言葉にできなくて、ただのゴマ模様になったよな。


その時の、…あのスタッフ。


あいつなら……!!!






───バタンッ!!!!!



「…チャンミン!!!」


一番に視界に入ったのは、そいつの大きな背中。



その奥に、壁に追い込まれるように、────チャンミン!!!



チッ、と舌打ち、手に持ったサバイバルナイフを大きく振り上げる。




最後におまえは俺を、…俺だけを見て、…確かに笑ったんだ。