4/10

Day10 メラピークアタック当日 HP5,800m→メラピーク6,476m

 

テントを張った位置がよかったのか、風に殆ど吹かれず静かなテント内で、昨日より随分とよく眠れた。でもまだ頭も痛むし、正直、登頂は絶望的だと思った。夜中にトイレに行って、靴を履いてパンツを下ろしただけで息切れするくらいだったから。

 

早朝1:30、周囲は出発の準備で騒がしくなる。「2時まで寝よう」とツィリンさん。次に起きたときはすでに2時半を回っていた。体調に不安が残る私をよそに、氷河を溶かし始め、朝御飯と水作りの準備を始める。昨晩随分戻してしまった私は全く食欲が戻らない。結局、何も食べれずお湯だけ飲んでテントを出た。

周囲のテントから咳き込む音が聞こえてくる。誰もがHCを出発出来るわけではないのだ。

ブーツにアイゼンを付けている間も果たして歩けるのか不安だった。真っ暗な中、自分がどこを歩いているのか分からないまま、ヘッドランプの灯りを頼りに、ザイルを繋いでいるツィリンさんの後ろをひたすらついていく。

背後が白んで来たと思ったら一気にご来光が登り、ヘッドランプを消す。カメラの電源を入れると満タンだった充電がゼロになっている。-20度以下では仕方ない。腕時計はぴったり肌に張り付いてしまって回しても動かない。風が吹くと氷の欠片が飛んで来て肌に刺さるようだ。これが名前だけ知っていた、ダイヤモンドダストか。本当に美しい光景なのは頭では理解できるが、それを感じる心の余裕はない。

 

いつまで経っても頂上は見えない。数時間前に出発した、イギリス隊のメンバーが次々に青ざめた顔をして途中下山していく。

昨日の頭痛はどこへいったのか。体調は思ったよりも良く、行けるところまで行けばいいと思いながら、ひたすら前に足を出す。私の頭の中は、テントの中でお経を読むツィリンさんの背中が浮かんでいた。

背後にはエベレスト、マカルー、チョオーユーなどがくっきり見える。ペースが落ちて足が前へ出なくなると、ツィリンさんがザイルを引っ張りあげる。あまりにも私が前へ進まないと、今度は歌を歌い出す。雪山にひょうきんな歌がこだまする。聞いているのは、カラスと私だけだ。

 

丘の上に小さな旗が見えたとき、ツィリンさんが私の方を振り向いた。

「ここが6,400mだよ。君はここまで来れたんだ。ダメだと思っても出来ることはある。挑戦することは何よりも大事だよ」

まだ登頂してないのに、ツィリンさんの言葉と辛さが込み上げて来て、泣けてきた。涙はすぐに氷に変わった。

 

4/10 AM8:50HCを出てから5時間弱、6,476mメラピークの頂上に立った。

まさかこんなにも早く登頂できるなんて思ってもみなかった。ツィリンさんにうまく登らせてもらったような気がする。

数時間前まであんなにも体調が優れなかったのに、どうして登れたのか。自分でも不思議である。登っている最中も、何か見えない力によって登らせてもらっているような、不思議な感覚だった。

ともかく、登頂できて良かった。ツィリンさんに感謝!


                頂上からの景色

ERIKO