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顔に日の光が当たる眩しさで目が覚めた。窓の外を見ると、強く発光する月の光が黒い海をスポットライトのように照らしていた。私の部屋にはカーテンがなく、窓は開けっ放しにして寝ているので、外の様子がダイレクトに伝わってくる。毎日、波の音を聞きながら、まるでビーチで寝ているような感覚だ。
島の家には大抵エアコンがない。日陰に入れば冷たい風で十分冷やされる。しかし、立派なエアコンがついている場所がある。昆布をしまう小屋だ。人間の温度管理よりも、昆布第一。
今日は晴れると見越して、昆布を4本(400m)干していた。そろそろ干し終わる4時半頃、放送が入った。
「おはようございます。組合員の皆様にお知らせいたします。本日は5時30分~6時30分より、昆布を採取いたします」
このタイミングでついに、今年初めての天然昆布漁の旗が揚がったのだった。以外すぎる放送に、みんな慌てて連絡を取り合う。私はやっと天然昆布が見られるという嬉しさでいっぱいになった。百合子ママは、万が一に備えて、天然昆布の旗が揚がった時のために、紀夫さんの着替えと弁当と身支度は玄関先に用意済みだった。さすがである。
私がいつも干しに行っているのは、養殖の昆布。天然昆布は、旗が上がらなければ取りに行くことができない。乾燥に十分な天気と、磯波がほとんどない海の状態であるなど、色んな条件が揃わなければならないのだ。
2時間の昆布漁を終えて戻って来る紀夫さんを、万全の体制で港で待ち、昆布をトラックに乗せ、干場まで運ぶ。みんな天然昆布とあって、これまでになく活気付いている。初めて触る天然昆布は、弾力も、厚みも養殖とは比較にならないほどしっかりしていて、“毛”と言われる(シドロゾアという虫)もついていない。さらに、まっすぐで干しやすいのだ。もちろん、昆布の値段も養殖の倍くらい。さらに昆布にはバフンウニまでくっついてくる。
見事に裾野まで広がる利尻富士を眺めながら、充実した清々しい仕事だった。
たくさん汗をかいたので、夕方、百合子ママの孫の、のんちゃんとうたちゃんと一緒に海に入った。さすが北の海、芯から冷たい。この冷たさと美しさが美味しい海産物を生んでいるのだ。久しぶりの海で心身ともに清められた気分。
ERIKO