オタトマリ湖


7/23

 今回滞在させてもらう家は、高橋さん一家。家の目の前は、観光ガイドブックに出てきそうな美しいリアス式海岸の景色が広がっている。高橋紀夫さんと百合子さん夫婦は、昆布漁とウニ漁に従事している漁師さんである。昆布漁が盛んになるこの時期、高橋さんの家には住み込みで働く人たちがやってくる。

 昨晩はその
3人の男性たちにも歓迎してもらい、夕食をご馳走になった。そして、少し早めの高橋紀夫さんの64歳の誕生日を祝った。紀夫さんの誕生日は810日だが、毎年その時期は昆布漁が忙しく、お祝いする時間もないのだそう。ケーキに描かれていたのは、昆布漁をする紀夫さんの姿。愛情たっぷりのケーキだった。

 ここで私は高橋さんのお子さんが使っていた部屋を使わせてもらっている。彼らは人の受け入れにとても慣れていて、さっそく「ママ、パパ」「えりちゃん」の仲となった。日本での初めての定住旅行ともあって、いろいろなことが不安だったが、この家族なら海外にいるときと同じ感覚で接することができる。

 
           ウニの殻を割って中身を取り出す


 今日は昆布漁がないということで、みなさんゆっくりと起床。(ゆっくりと言っても朝6時頃)

「漁に出るか出ないかは、旗が上がってから決めるんだ」

 各家庭に設置されている防災放送で、漁が可能かどうかなどが伝えられる。昔は放送ではなく、旗を上げていたそうで、今でも“旗が上がる”という言い方をする。実際に海が荒れれば船が出せないし、雨が降れば昆布が干せないので、漁には出られない。

 昆布漁には出られないものの、ウニ漁の旗は上がったので、紀夫さんは海に出た。港では漁師の奥さんたちが、ヤッケというカラフルな作業着を身にまとい、夫の帰りを待つ。
 しばらくするとバフウニが積まれたボートが戻って来る。そのままウニ小屋へ移動して、ウニを割り、身を取り出す。ウニのトゲが手のひらに当たる。吸盤を必死に動かして生きようとするウニの口にナイフを指し、殻を割る。自分の手の中で一つの命の生と死を感じながら、久しぶりに触る海の生き物の感覚の懐かしさと、トゲが心地よく刺さる感覚が心地よい。こういうことを感じるのは、人間にとってとても大切なことであると思う。



          家族の高橋紀夫さんと利尻富士


 利尻の漁師に定年退職などない。最近までは92歳の女性が働きに来ていたそう。帰り際、ウニをたくさん積んだリアカーを元気に押す85歳のおばあちゃんの後ろ姿を見た。生きるための仕事に定年なんてないのだ。

 家に戻りしばらくすると、ウニの入札が終わったと放送が入る。今日獲れた
3kgのウニは1kg 13,500円で売れた。

 午後は、人から預かった本を渡しに行ったり、連絡を取っていた役場の方に会ったりした。そうしている間にみるみる天気が良くなり、結局昆布を上げに出ることになり、一緒に同行させてもらった。昆布がついた紐の長さは100m、それを紀夫さんは一人で引き上げる。
 明日から噂に聞いている過酷な昆布干しが始まりそうだ。明日は朝2時に起きる予定。大丈夫か、私。


⭐︎今日のご飯⭐︎


普通のカレーライス?と思ったあなた、具はアワビがふんだんに入ってます


ERIKO