日常の一コマ

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 朝、漁業組合のミーティングから帰ってきたヨウニさんは珍しく浮かない表情を浮かべていた。ヨウニさんはいつも笑っている。「へへっ」と低音かつ特徴ある笑い方をするので、こちらまでおかしくなって笑ってしまう。

EUが新しい漁業ルールを提示してきたんだ」

 奥さんのマリアンネさんが英語で説明してくれるも内容が複雑で途中であきらめてしまった。詳しいことはわからなかったが、これまでの漁に変化が起こるということだけは理解できた。彼らの生活も国や組織という外部の圧力や環境変化によって、時代と共に変化していく。彼らのトナカイ飼育のこともそうだ。「今年はトナカイの世話はしないつもりよ。餌代だけで1000ユーロもかかってしまうの。来年も続けるかわからないわ」

 サーミの伝統的な習慣が時代と共に消え去ろうとしている。私はそれを良いとも悪いとも思わない。すべては変化していくものである。私はただ、彼らがトナカイを追いながらテントで遊牧していた時代に生まれてこなかっただけなのだ。私は違う時代に生まれ、それを見るには間に合わなかったのである。だからこそ、今を生きる彼らの生活をしっかりと見つめていくことが大切なことのように思う。やがてこの生活も消えてゆくのだから。

「私たちはフィンランド人ではなく、サーミなの」と断言する彼らの生き方。時折遠くの自然を見つめる彼らの目は、野生的で鋭い。人間を見るときの優しい視線とは違う、動物や自然を見るときの眼光は、生きるためにものを見つめるような眼差しとも言えるだろう。

 

 夕方、今日の夜ボーイフレンドと住むイヴァロへ戻ってしまうアレッタちゃんとランニングへ出かけた。彼女は私より年下だが、随分面倒見がよく、毎日食事の準備をしてくれる。今日の夜から寂しくなるな・・・

ERIKO