今回のフィンランドへ行きの全ての始まりは、「暮らす旅びと」を出版した、かまくら春秋社の伊藤玄二郎社長に出会ったことだった。本の出版がなかなか決まらず、日々原稿を抱えて出版社を訪ね歩いていた時、知人からの紹介でお会いした。何気ない会話を交わしながら、彼は私の原稿に目を通すこともなく、しばらく話をした後、「いい本を出そうね」と出版を決めてくれた。その時は突然のことで、嬉しさより、あとでやっぱり出版は難しいと言われるのではないだろかなどと考えて、素直に喜びきれなかった。
「これ、最近うちで出した本なんだ。このサーミって民族知ってる?」子供向けのフィンランド図鑑。私の目の前で伊藤さんが広げたページは、雪のような白い肌に原色の鮮やかな民族衣装を身にまとった、サーミというヨーロッパで唯一の先住民族の写真だった。
「ここに写ってる彼らから、いつも来いと言われているんだが、なかなかそうも行かなくてね。もし興味があるなら、紹介するよ」
カタログで自分好みの商品を見つけたような感覚だった。私は二つ返事で、「はい、お願いします」と言った。以前からそこへ行きたかったわけではない。ただ、行かない理由もなかった。なんだかすんなり受け入れてしまったのだ。それは、直感的な伊藤さんという存在への信頼と、彼らの写真から伝わってくる美しさだと思う。それから私のフィンランド遠征の準備が始まり、今日に至っている。人生どこに連れていかれるのかわからないものだ。
後日、伊藤さんより、写真家のなかのまさきさんを紹介してもらい、お会いさせてもらった。浅黒い肌にどこか異国を感じる雰囲気のなかのさんは、これまで北極圏へ何十年も通い、サーミ族の人々を撮り続けている。
ヘルシンキ、カレリア地方、北極圏イナリ。今回の旅は、全てなかのさんから紹介して頂いた家族にお世話になる。なかのさんが何十年もかけて築いた信頼の恩恵を受けるのだ。それは何にも変えることのできない最高の財産を共有させてもらうということ。なかのさんには、感謝してもしきれない。
最近はネットでカウチサーフィンなどのツールを利用すれば、世界中の様々な地域の人々の家に簡単に気軽に泊まることができる。それを否定するつもりは全くないが、私の定住旅行は自分の人生でご縁がある人から繋がっていく活動でありたいと思う。それが緩やかな線となって、様々な出会いと感動を生むと信じている。
フィンランド、正式名スオミ共和国。最初の滞在地、首都のヘルシンキでお世話になるヤリさんとアンネさん宅に昨日到着した。今日からフィンランドでの定住旅行が始まる。
ERIKO