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 昨晩知人から一通のメールが入った。カリブ海のバルバドスへ行った際に、色々な手配をしてくれた女性である。内容は、バルバドスでお世話になったローハンさんが突然亡くなったという知らせだった。あんなに元気だったローハンさんがと未だに信じられない。スピリチャルで心から親切な人だった。『エリコの本が出るのを楽しみにしているから』と何度も話してくれた彼だったが、それも叶わぬままこの世を去っていった。
昨晩は彼のことと自分の死について思い巡らせながら眠りについた。以前は毎朝自分の死に姿を想像し、今日何を本当にしたいのかと問っていたのだが、忙しさと明日に対する安心感から、最近死というものを意識する時間を忘れていたように思う。ローはンさんの死はそれを思い出させてくれた。
“死に方が分かれば生き方が分かる”映画“モリー先生との火曜日”でモリー先生が愛弟子に最後の授業で伝えた言葉。
ローハンさんのご冥福をお祈りします。

 コスタリカ滞在も今日で最後。会いたかった探検昆虫学者の西田賢司さんに会うことができた。待ち合わせをしたエレディアにあるサントドミンゴ村は、国内で唯一青と白のコスタリカの伝統的な家々が残っている地域で、政府の援助によってその風習が守られている。
ペルー料理屋に森からそのまま出て来たようなツバの丸い帽子を被った男性が座っている。西田さんはテレビや雑誌で見るイメージ通りだった。
家族のシニアさんも同席して、コスタリカや大陸と人種についての話しなど、質問をするとなんでも丁寧に答えて下さった。
『僕は誰も研究対象にしない小さくて目立たない虫が好きなんです』
彼は今、アカバナキバガという種類の蛾の研究を進めているそうで、同じグループで色々な生き方をするこの蛾が好きなのだそうだ。
話しを聞いていて、様々な生き方を繰り広げる蛾の幼虫の話しに、我々人間の生き方を照らし合わせた。西田さんは昆虫に対して情熱的であるが、常に冷静で中立的な視点から物事を捉えて話しをする。
また日本での再会を誓って長い昼食を終えた。





"できるだけ多くの時間を人間が創らなかったものに囲まれ生活していくことは大切なこと。その環境は、私たち人間の脳で簡単に理解できる世界ではなく、私たちはそれにより考えさせられる他はない。この世を創ったのは私たちではないことは知っている、しかし私たちはその一部である。敬意と愛を持ちつつ、その一部でありたい"   西田賢司 

 
 コスタリカには親日家が多く、日本は“お手本の国”というようなイメージを持っている人によく出会った。
1949年、軍事放棄をするという平和憲法を制定し、戦争や内戦の歴史を持たない国の人々は、ラテン系で明るいといえ、古風で穏やかな内面をうちに秘めている。
他の国で見るような貧困層も少なく、これまで旅して来た国でも、コスタリカから出稼ぎに出ているというケースに出会ったことがない。
女性の社会進出推進も盛んで、国政選挙は各政党の立候補者が男性女性同等の比率を保つように義務づけられている。ただ、実際の生活では未だに昔の風習が色濃く残っており、家業=女性の仕事という概念が一般的に根づいているように感じた。
2021年までには『自然との共存』をテーマに、
温室効果ガスの排出量を森林のCO2吸収量と相殺する『カーボン・ニュートラル』と呼ばれる目標へ向けて国家計画を推進中である。

 いるだけで自然と平和をについて意識してしまう国、コスタリカ。
予定していた滞在日程よりも長くなったが、お世話になったクラウディアさんとシニアさん一家のお陰で、有意義な滞在となった。
『僕は15年コスタリカに住んでいて、こんなコスタリカ人に出会ったのは初めてです』
西田さんが話す通り、私がお世話になったシニアさんは、過去にフォルクローレのダンスで世界中を回った経験を持っており、一般に言うコスタリカ人よりももっとずっとオープンであるかもしれない。

 よく働き、よく笑い、よくしゃべる。貧困家庭に生まれた彼女はずっと続いていた家系の貧しさを断ち切った。
『私はいい家に住んで、いい車にも乗っていて、旅行もできるけど、私の幸せはいつも心の中にあって、こうゆう物では決してないの。明日死ぬかもしれないから一所懸命生きるの。そしてできる限り自分の時間を人のために使うの。それが幸せの秘密』

 旅は誰と出会うかによってその価値は大きく変わることを再確認し、改めて彼らとの出会いに心から感謝した。シニアさんは一緒に撮った写真がプリントされた手作りの水入れのボトルとTシャツをプレゼントしてくれた。

 早朝、玄関先でパジャマ姿の逞しい彼女が目に涙を浮かべながら見送ってくれた。彼女の姿はコスタリカで最後に見たどんな景色より美しかった。



    シニアさんがプレゼントしてくれたTシャツとボトル




ERIKO