
この山の裏にルク・ピチンチャがある
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ヤナウルコから戻り、休む時間もないまま航空券のチケットの手配に駆け回った。エクアドルはアルゼンチ同様、外国人と現地の人用の金額が異なるため、インターネットで購入すると少しややこしい。
キトには私の旅を応援してくれている旅行会社のSURTREKさんの本社がある。ガラパゴスへの旅行をお願いしていたので挨拶を兼ねて会社を訪問させてもらった。会社にはたくさんのエクアドル人と数人の日本人が働いている。対応の早さやケアーの質はピカイチなので、私も自身を持ってオススメできる旅行会社である。
今週木曜日は待ちに待ったコトパクシ登山が待っている。コトパクシに向けた高所順応のため、ガイドをしてくれることになったウィリングトンさんと、キトの西部にある標高4,696mのルク・ピチンチャ(Rucu=ケチュア語で古い)へ登る。ここで上手く順応できなければコトパクシ登山は到底無理な話となる。
朝8時半に2,950mから一気に4,050mまで上がることのできるTeleferico(ゴンドラ)の前でウィリングトンさんと待ち合わせをした。日に焼けた浅黒い肌を除いては山男には見えない。彼は55歳で登山暦は30年以上。
キトの家族のカルメンさんの彼からの紹介だったが、山への登頂は本人のメンタルとどのガイドと登るかが大きな鍵だと話していた。
天気は良好。歩き出すと少し汗ばむくらいだった。このゴンドラはクルス・ロマ展望台へのアクセスとして8年前に観光客用に設置された。展望台からはキトの町が見事に見渡せる。
足を止めたくなるような上り坂をいくつか越えると、岩でゴツゴツしたルク・ピチンチャがようやく姿を見せた。
『昔はこの辺りにコンドルも飛んでいたんだけどね』
ウィリングトンさんは鳥や虫が現れる度に名前や特徴などを説明してくれた。山のことを知るにはとても大切なことである。オオカミの足跡に続いて砂地の道を登っていく。
『休憩して水を飲みましょう』
標高が高い場所では体内の水分消費が激しいため、飲みたくなくてもたくさん水分を取ることが高山病予防に繋がる。
『もう半分まできましたかね?』
『どれだけ進んだか、あとどれだけあるかはあまり考えないほうがいい。ただひたすら1歩を前に出し続けること、これが大事だから』
素晴らしいガイドに出会ったと思った瞬間だった。
登頂することがゴールではない。登頂は登山の一部である。ときに掴みたいものが掴めなくとも、追いかけている間に思わぬ体力がついたり学びを得ることがある。登りがきつく酸素が足りない時は、何を考えるかがとても大切になる。辛くなった時余計なことを考え出すと疲れが倍増して息が乱れる。登山は心を鍛えるスポーツであると登る度に思う。
頂上が見えだすと、砂地は岩へ変わりストックをしまって、手でよじ上る。柔らかい砂の上にある岩は踏みつける度ガラガラと落石する。霧が濃く頂上は見えない。
出発してから3時間後、霧に包まれたルク・ピチンチャに登頂した。雲の流れは早く時折雲の切れ間から晴れ渡ったキトの町が見える。
持参した干しぶどうパンとチーズを食べ、たっぷりと水を飲み下山した。登った道をひたすら下りる。同じ場所を通っているのに景色はまるで違う。
アメリカ人のカップルと相乗りになったゴンドラの中でコトパクシへの予定を立て、ウィリングトンさんと別れた。
下山すると空腹に襲われ、帰りのタクシーでKFCに寄り道しチキンを買って帰った。タクシーの運転手は一緒にご飯でも食べないかと誘ってきた。キトのタクシーは乗車して下りる時には大体お互いの家族事情を知るくらいフレンドリーである。
明日は体を休め、明後日のコトパクシに備える。
ERIKO