Union Islandの街並


3日目

 朝目が覚めて甲板へ出ると、こんな場所に停泊していたかと目を疑うほど、水色、エメラルドグリーン、スカイブルー、藍色と何色もの色が連なる海に囲まれている。

 朝食を食べに、ユニオン・アイランド島へボードを走らせる。
これで海の上ではなく、正式に
11カ国目のセント・ヴィンセントへ入国したこととなる。
レストランの周辺の町を少し散策する。港は真っ青な海に映えるカラフルなボートが目に留まる。
グレナダと同じカリブの島といえど、心なしかどこか雰囲気が違う。それは建物の色だろうか、空気感なのだろうか、はっきりしたことは分からない。その微妙な違いを感じることができるのも旅も楽しみの一つである。

 誰もいないローカルな海辺のレストランでトーストとベーコンを食べた。トマト一切れとキュウリとベーコンがのっただけのごくシンプルなメニューなのに、
20EC(約10USドル)とは、物価の高いカリブ諸国が堂々と提示できる値段設定である。ちなみにセント・ヴィンセントやドミニカ国などのEastern Caribbean(東カリブ諸国)は同じECという通貨を利用している。




     グレナダから出ている観光客用の帆船



 『風がいい方向に吹いてくれれば、プライベートビーチへ連れていってあげるよ』
コッツェ先生曰く、そこはカリブで一番綺麗なビーチなのだそうだ。
先生は船に乗り込むと早速、これまでとは違う真っ赤な帆を張った。
『いい風だ』
先生が見つめる方角には、昔絵本で見たことのある帆船があった。




                Mopionビーチ


 周囲10mほどの白い砂浜が盛り上がって出来たようなMopion(モピオン)ビーチは、知る人ぞ知る天国のようなプライベートビーチ。
まさか死ぬまでにこんな場所へ来ることができるなんて夢にも思わなかった。水はちょうど良い温度。サラサラで自分が海の中にいるとは思えないほど心地よかった。

 最後の海水浴を楽しみ、船は私達が住むグレナダ島へ向かう。エンジンを止めてもスイスイ走るほど風向きが良い。
しかし、反対に波に合わせて予想もつかない揺れが酔いを悪化させる。






 品の良い黄金色の夕日が海を照らす。
この
3日間、地球上で一番大きな光、太陽の色んな姿を船の上から見た。
気持ちが悪くなりながらも、手すりにしがみつき夕日を懸命に眺める。
その横で、コッツェ先生は『僕は一度も船酔いをしたことがないから、どうして気持ち悪いのかさっぱり分からないよ、ハハハ』と、笑った。
きっと海の神様が受け入れてくれているんですよ、そう思った。

 『先生はどうして海に出るんですか?』
『風に乗ったときが最高だからだよ』
私はこの数日、先生達が風に合わせて帆を調節する姿を見ながら、こう思った。
向かい風が出た時、悲観的な人間は『また風が出た』と文句を言う。前向きな人間は『まあこんな時もある、待てばいい』と言う。でも今を生きる人間は、帆を調節して前へ進む。
先生が辿ってきた航海にも似た人生はある部分でヨットと重なるのかもしれない。

 夜
10時、予定より2時間早くセント・ジョーンズの港に着いた。
私は地上に上がれる喜びと満足感に浸っていた。
私が船を降りたあとも、先生は家である船に留まる。そして私が島を去るあとも、船を住まいに海と一緒に生き続けるのだろう。
3日振りの松葉杖をつきながら先生の船を振り返り、先生が歩いてきた人生と、私の道が重なった出会いに感謝した。

ERIKO