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 先日、定期検診のように足の経過を診てくれているコッツェ先生が、
『毎日大学や病院と家の往復じゃあ、グレナダを満喫できていないでしょう』と、先生の趣味であるセーリングへ連れて行ってくれることとなった。

 先週の金曜日にセント・ジョーンズの港を出発し、日曜日の今日まで
23日の本格的なセーリングを体験した。人生初めてのセーリングは、風に身を任せる船が上下左右に激しく揺れながら意識が朦朧とすることもしばしばだったが、出来る限りの記憶と日記を辿って3日間の様子を振り返りたいと思う。





              セント・ジョーンズにある碇泊所


1日目 出発

 出発の前日、コッツェ先生に怪我の様子を診てもらった際、『この感じなら大丈夫でしょう』と、セーリングの同行許可が下りた。
一体セーリングとはどんなものなのか、浜辺で寝泊まりするのか、どこまで行くのか、などなど聞きたいことはたくさんあったが、あえて何も質問しないことにした。心の中で知らずに驚きたいという気持ちがあったからだ。

 当日の金曜日、セント・ジョーンズ大学でコッツェ先生と白江先生の授業が終わったのは午後
3時。大量のお菓子や飲み物などを車に詰め込んで奥さんのサチさんと一緒に港へ向かう。今日もグレナダの空はピーカンに晴れている。
たくさんの船が停泊しているダウンタウンの港へ着くと、コッツェ先生はタバコを口に加えながらロープを結わえて出航の準備をしている。
『ようこそ我が家へ!』
そう、コッツェ先生の船は彼が普段生活している家でもある。
先生は
5年前に生まれ育った南アフリカの家を売ってこの船を買ったのだ。
船内はキッチン、リビング、寝室、客室とバスルームが
2つ付いている。地上の上に立つ家と違うのは、地面が揺れることくらいである。
船には黒人のダニエルという女性が同船している。彼女はスラッとした綺麗な長い脚をしていてよく働く。




            帆を調節するコッツェ先生



 港を出ると、徐々にセント・ジョーンズの町が小さくなりひらけた海に出た。私は船の先端に腰掛け、波合わせて上下に揺れるのを楽しんだ。
午後
5時半を過ぎると太陽が沈み出し、しばらくすると月が昇り始めた。
満月を終えたばかりの月は黄色く陶器のようにしっとりと輝き、辺りを見事に照らし眩しいほどだった。
コッツェ先生とダニエルは風の向きが変わる度に忙しなく甲板と船内を動き回り、帆の向きを調整したり、それを出したり閉まったりした。
ゲストである私と白江夫婦はそんな彼らの俊敏な動きを横目で感心しながら風の当たるベンチで横になりウトウトしている。

 エンジンの音が小さくなり、本日碇泊する
Carriacou(カリクー島)に着いたのは夜中の2時だった。
『やっぱり陸には上がらないのか・・・』
なんとなく分かってはいたものの、微妙に揺れ続ける船内で最後まで過ごせるのか少し不安になった。なんせ私は乗り物酔いをしやすい体質だからだ。周りは黒い海に囲まれ、いくつかの船と少し先の方に島が見える。
碇を下ろし、船内に入ってゆっくり右に左に揺れるランプをぼーっと見つめながら、ソファーベッドの上でいつの間にか眠りについた。

ERIKO