University Clubのプール


 思ってみなかったアクシデントに見舞われ、予定より長く滞在することになったグレナダ。
先日、絶叫のガーゼチェンジを行った後から、松葉杖の生活が始まった。怪我をしている左足のかかとを付きながら歩くより随分と楽になった。傷口はまだまだ皮が作られる様子はない。これまでいくつもの土を踏みしめてきた登山靴が、部屋の角で寂しそうにしている。

 『家の中にいてもなんですから』と、白江さん夫婦は足に負担のかからない色んな場所へ連れて行ってくれる。
昨日は、セント・ジョーンズ大学が所有している、University Clubというプライベート施設を案内してもらった。
この海沿いにある施設は、大学の教授や関係者の人達が使用することのできる場所で、レストランやバー、プールなどがあり、学校からのゲストや卒業生達が泊まることのできる宿泊施設がある。
プールサイドへ行くと、もう顔見知りになったドクターのサラが日光浴をしている。
サラは南アフリカ出身の大学教授で、日本への留学経験もしている。シリアから来ている教授の奥さんも加わり、真っ白いビーチを眺めながら、色んな話に花が咲いた。
一緒にテーブルに座る4人は全員外国人。偶然にもこのグレナダという小さな島で、出会えたのはなんだかすごい確率なのではないかと思った。






 ビーチでのんびりした翌日の今日は、再びセント・ジョーンズ大学へ出かけた。
白江先生が、『足を診てくれる先生がいる』と、ドクター・コッツェを紹介してくれた。
コッツェ先生は、ヒゲが印象的な貫禄のある先生で、彼が足に触れた瞬間からとても信頼の置ける先生だと感じた。
コッツェ先生は、南アフリカ出身。
南アで、いくつもの病院を経営していたが過労で倒れ、カナダに引っ越し、同じく医師として働いていたが、そこでも過労で倒れ、趣味であったヨットセーリングをしながらのんびり生きていこうと、この島へ辿り着いた。
ここでやっとゆっくりできると思いきや、偶然出会ったこの大学の学長にスカウトされ、今度は医学倫理の講師として働くことになったのだという。
人の人生は不思議なものである。一生懸命やっていると、どんどん何かに導かれていくのだろうか。
コッツェ先生の部屋の窓からは、キラキラと水面が光るグレナダの海が広がっていた。



               ドクター・コッツェ


 大学から家へ戻るとき、初日に会ったピーター先生が声をかけてくれた。彼は私の手をとると、ナツメグの実を3つ掌に乗せた。
スパイスアイランド(香料の島)として有名なグレナダ。
ピーター先生がくれたささやかなプレゼントは潮の匂いに混じって、忘れがたい島の匂いを残した。



ピーター先生がくれたナツメグの実 グレナダの国旗にも使われている


ERIKO