Dr.Ramnarie


10/31

 体のべとつきが気になって、5時頃目が覚める。町が動き出す音が聞こえる頃には、扇風機では対応できない暑さと湿気が体にまとわりつく。

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日目の昨日は、滞在先でお世話になっているマルナさんと町へ買い物に出かけた。Maxi-Taxiと呼ばれるミニバスのような乗り合いタクシーに乗って、ポート・オブ・スペイン地区を回った。
教会やホール、ちょっとした家など、建築物がかなりこじゃれている。ディズニーランドでしか見られないような、斬新なデザインが多い。

 今日は知人から紹介してもらった、アドリエルさんに町を案内してもらい、お父さんの
ラムナリエに会わせてもらった。
アドリエルさんは、インド系のトリニダード人で、お父さんはカリブでも有名な、ホメオパシーの先生である。受診してもらうには6ヶ月前からの予約が必要らしいが、運良く会わせてもらえることとなった。

 ラムナリエさんは、背が高く、すらっとして、とても彼の年には見えない若い顔立ちをしている。
36年間、ドクターとして病院で勤務していたが、違う形で人助けがしたいと模索した結果、この医療方法に辿り着いたと話してくれた。
『私がやっているのは、ホメオパシーではありません。本来その人が持っている体の情報とエネルギーを使った治療をしています。例えば、この種は土に入れると芽が出て来ます。この種に芽が出るという資質を情報(
Information)と言います。そして、私たちが知ることのできないこの種に秘められた可能性をエネルギー(Energy)と言います。エネルギーはそれぞれの表現とも言えるでしょう。じゃ、やってみますか』

 ラムナリエさんは、私に電気の通った棒を右手に持たせ、左の薬指に鉛筆のような機械を当て、電流計の計りの振り方と音を見た。
『エネルギーレベルが極めて高いし、とても健康ですね。何か特別なことをしていますか?』
答えがすぐに思い付かなかったが、忘れなければほぼ毎日、呼吸を深くするためにインド聖典のマントラを唱えるようにしている。
『それはとてもいいですね。私がしているのは、思考を過去にも未来にも当てないことです。例えば今あなたと一緒にいるこの時間は、あなたとそれを取り巻くことだけにエネルギーを注ぐ。後で何を食べようかとか、昨日何が起ったかなど考えず、今に集中するようにしています』
その話を聞いて、今にエネルギーを注ぐというのは、愛の行為だと思った。相手に集中し、相手のことを思う。一緒にいても、思考機関が別のことを考えていたら、そこにいてもいないようなものである。

 ラムナリエさんの机には、スポイトが入った小瓶と石、機械と数字がたくさん書かれた紙がいっぱいに並んでいる。
しばらくすると、スッと立ち上がって、器のような形をした鐘を鳴らした。『極めて健康だけど、強いて言うなら胃が悪いね。胃潰瘍だったことはない?』
鐘を鳴らして私の体の一部分の微妙な違和感を感じたのか、全くその通りのことを言われた。
自分に合うパワーストーンを教わり、胃のための調合した薬を渡してくれた。そして、近親者や自分に亡くなる可能性の人はいないか、ガンや病気の心配はないかも調べてくれた。
薬の調合は、いくつもの数字が書かれたシートの上に水の入ったビンを置くだけのものだった。
『小さい頃はよく泣いたね』
セッションが終わったあと、彼はぼそっと言った。
『あなたは地球や宇宙にとって、とてもいいエネルギーを与えている人だよ。今日は私も良い人に会えた、ありがとう』
私は診てくれたお礼に、ガイヤトリー・マントラを詠唱した。彼はとても満足したようで、セッションの後、ランチを作ってごちそうしてくれた。



              ラムナリエさん一家



 ラムナリエさんの家を後にし、
アドリエルさんと彼の友達で、シャグアナスからさらに南に向かって車を走らせた。
町の中を散策すればするほど、ここはインドではないかというような錯覚に陥る。ヒンドゥー教のお寺、ガネイシャ神の看板、カレー屋、どこからともなく聞こえて来るシタールの音。そしてラクシュミー神をお祝いする、
Divali(ディワリदीपावली)の日が近いこともあり、あちらこちらでロウソクの準備をしている人達を見かける。



      Waterlooにある、ヒンドゥー教の寺院



 向かった先は、
Waterlooの海辺に建つ、ヒンドゥー教のお寺だった。
海水は、カリブ海の澄んだ色とは違い、まるでガンジス河のように茶色く濁っている。遠くにベネズエラの島が見える。
寺院の隣の広場には、まさにガンジス河の川沿いのように火葬場があり、時折風に飛ばされていく灰にまみれて人骨が見え隠れした。
まさか、カリブの島トリニダードで、野外火葬を見るなんて夢にも思わない。

 今日1日案内してくれた、
アドリエルさんと彼の友達ととても仲良くなった。南米の人たちのようなふざけた冗談は言わないが、とても親切な人達であることには変わりない。人との出会いに改めて感謝した1日だった。



              海沿いにある、火葬場

ERIKO