
お世話になった細田さん夫妻
9/12
アリアンサ1日目
“ブラジルに鳥取村がある”ことを知ったのは、旅が始まる半月前だった。県庁の人達の協力で鳥取移民の歴史を学ばせてもらい、ブラジルへ行ったら是非訪ねてみたいと思った。
今、私はその鳥取村のある、“アリアンサ第二”という村にいる。
アリアンサ(共に手を取り合うという意味)はサンパウロから夜行バスで9時間、北西に600kmのミランドポリスという町からさらに40km進んだ所にある、日本人移住地である。
第1~3まであり、第1=長野県、第3=富山県というように別れているが、実際に住んでいる県民はバラバラである。
体の痛くなるような夜行バスを降りると、鳥取県移民の2世であり、一晩お世話になる、細田さんが出迎えてくれた。
『よくいらっしゃいました』流暢な日本語で話す細田さんは、真っ黒に日焼けをしていてすぐに日系人だと分かる。
家は南米の田舎によくあるように、広い敷地に離れと合わせて2、3軒あり、車を降りると5、6匹の犬たちに囲み込まれた。
奥さんのタニコさんもかなり日本語がうまい。
この家には鳥取県が派遣している日本語教師のかおりさんがホームステイしている。
1時間半ほど仮眠させてもらい、村人の家々を案内してもらった。
真っ赤な土道は車が走りやすいようにきっちり整備されている。赤土を見るとパラグアイを思い出す。
アリアンサ村の家々は、隣の家との距離が大体2km以上離れている。
約1日をかけて、ライチ農園のタチバナさん、マンゴ・オクラ・アセロラ畑の森田さん、養鶏所の中尾さんに、牛の売買とトウモロコシ畑の大森さん、養鶏所のサダイケさん、ゴム林と牛の売買をする塩崎さんの計6軒の家を訪問させてもらった。
この中で鳥取県からの移民は養鶏所の中尾さんだけである。
どの家の人達も2世だったこともあり、皆さん日本語を話していた。
もてなしてくれたお菓子などは、手作りの団子や日本の茶菓子がほとんどで、日本へ出稼ぎ経験のある人達ばかりだった。
真っ黒に日焼けした肌に屈託のない笑顔が似合う。
ブラジル語で話しかけると、『話が通じやすいわ』と言って、喜んで色んな話をしてくれた。アリアンサの人達は、ポルトガル語のことを、ブラジル語と言う。日本語を流暢に話す彼らでも、やはり心が通じ合う言語はブラジル語なのだろう。
たった1日だけでは村のことは分からないが、人々はのんびり明るく生活しているということは見てとれた。
今ブラジルは景気が良い。昔は日本へ出稼ぎに出ていた人々が、反対にブラジルに働きに来ることも多いのだという。
夜は家の庭でシュラスコをしてくれた。
日が暮れると、あっと言う間にたくさんの巨大なガマカエルが出没し始めた。犬たちはそれを咥えて遊んでいる。
昨晩バスの中で睡眠が取れず、日中ずっと日に当たり続けたので体はだいぶ疲れていた。
星を見ようと思い、外へ出る扉を開けると、大きなカナブンが顔面を直撃し、足下でガマガエルが扉に向かって重そうにぴょんと一飛びした。
カエルの後ろ姿は太ったおじさんみたいでかわいい。
網戸の向こうから見えるリビングでは、タニコさんが編み物をする姿と、先生が学校の準備をしている姿が見える。お父さんはもうすっかり寝ているようだ。アリアンサ村は静かな夜を迎えていた。