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ドロンズさん達が辿った旅の経路と私の旅で滞在する場所がこんなにも一致すると、偶然とは思えなくなってくる。
ブラジル滞在前に、大島さんからブラジルでの放送VTRをいくつか送ってもらっていた。
その中に、クリティバの孤児院の映像があった。
“クリティバの郊外にありました”と書かれていたが、クリティバの町は大きく、訪ねることが出来るかどうか分からなかった。
南北アメリカ大陸横断 ブラジル・クリティバ孤児院編
ブラジル・クリティバに到着した直後ドロンズさんたちの所持金が尽きて、ガソリンスタンドで寝床の交渉をした際、断られて紹介された場所が今回探すこととなったLar o bom camino(正しき道への家)という孤児院である。ここで彼らは9日間、子供達の世話をして働きながらお世話になっていた。
現在滞在しているクリティバの家族に住所を見せると、
『うちからそんなに遠くないわ』と、ありがたいことに家族が休みだった先週の土曜に車で連れて行ってくれることとなった。
孤児院は家から車で10分ほどの場所にあった。
『こんなに近い場所にあったなんて・・・』あまりの偶然に本当に驚いた。
だが、そう簡単には孤児院の中に入ることはできなかった。
土曜日であったということと、アポもなく知らない人を中に入れることはできないと断られてしまった。
ポルトガル語が話せないので、相手に状況を伝えることもできない。
週が空けた今日、おばあちゃんのルシアさんに頼んで、訪問のアポを取ってもらった。
おじいちゃんのホジェリョさんが同行してくれ、ようやく責任者であるニューセイヤーさんと会うことができた。
さっそくドロンズさん達の写真を見せたが反応がない。
事情を説明すると、ことの成り行きは分かってもらえたようで、とても喜んでもらえたのだが、すでにかなりの月日が経っており、彼らのことが分かる人は誰一人としていなかった。
それでも『良く来てくれました』と言いって、彼女は孤児院の中を隅々まで案内してくれた。
ラルオ・ボン・カミーノ孤児院は、現在26名の2才までの幼児を受け入れている。運営は主にブラジル政府からの援助で成り立っており、従業員は25名。
キッチン、洗濯場、遊び場、授乳室など、それぞれにプロのスタッフが常住しており、衛生管理や子供達への細かいケアーが行き届いているのが一目で分かった。
彼らがいた頃は小学生くらいの子供達もいたが、今は2才までの小さい子供のみ受け入れている。遊び場では泣いてる子は一人もおらず、突然訪れた私を不思議そうに眺めたり、遊んでいた積み木を渡してくれたりする子もいた。
ここで受け入れられている子供の親のほとんどはクラッキーと言われるドラッグ中毒者で、コカインよりも値段が安く手に入りやすい。
一度常用するとなかなか止めるのが大変なドラッグなのだそうだ。
何人かの子供達の親の中には、無事中毒症状を克服して子供を引き取る場合もあるが、里親に引き取られる子供が大半なのだという。
『何年か前までは、子供達に彼らの親のことを隠していました。今は物心つき始めた頃から、彼らの親がどうしていないのかという真実を全て伝えるカルキュラムを組んでいるの』
まだ生まれて何ヶ月かしか経っていない赤ちゃんが何人かゆりかごの中でおとなしく揺られていた。彼らの瞳は心なしか随分しっかりとした意思を持っているように感じた。
帰り際、面会室で白い白衣と帽子を被った夫婦らしき男女が、赤ん坊を抱いていた。
『回復の兆しのある親はこうして週に1度、子供と面会できるようになっているの』交互に赤ちゃんを抱き合う彼らの目は赤くうつろだった。
ドロンズさん達は17年前にここへきて何を感じ、何を思ったのだろうか。
大島さんへ
クリティバという広い町で、『正しき道への家』の孤児院は、まるで線路でも敷かれていたかのように、私の滞在する家のすぐ近くにありました。
残念ながら、働いているスタッフの人達はほとんど入れ替わってしまい、ドロンズさん達のことを知る人はいませんでしたが、責任者のニューセイヤーさんという女性の方はとても歓迎してくれました。
孤児院の中はとても几帳面に管理されていて、ゴミ一つ落ちていないほど清潔な環境でした。
ドロンズさんと大島さんの写真をお渡しすると、里親が見つかった子供達の写真が貼られている場所に貼らせてもらいますと喜んでいらっしゃいました。ドロンズさん達が面倒を見ていた時の子供達の大半は、アメリカ、イタリアなどで里親が見つかりそれぞれの国で暮らしているそうです。
子供達もとても元気で、遊び場には何人かの先生達がドロンズさん達が子供達と遊んでいた場所で面倒を見ていました。
VTRで見たエリザベス院長にお会い出来なくて残念でしたが、孤児院のスタッフの方々は皆さん喜んでくださいました。
私にとってもブラジルの現状や人々の生活について学ぶ良い機会となりました。ありがとうございました。