ラ・プラタの家族とアレックス

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 ラ・プラタから261km離れた、ブエノスアイレス州にある、25 de mayo(ベンティシンコ・デ・マショ)という村へ来ている。
この村への訪問は、モニカさんが、アルゼンチンの田舎も見て欲しいと、アレンジをしてくれた。
ラ・プラタの家族と、滞在中色んな場所を案内してくれたアレックスにお別れを告げ、ミニバスに
4時間半揺られた。
バスの中ではマテ茶が飲回され、改めて自分が今アルゼンチンにいることを実感する。
牛や馬が草を食む、のどかな緑の景色がどこまでも続き、同じリズムに揺られながら、気がつくとバス停の近くだった。

 バス停へ着くと、お世話になるギシェルモさんが迎えに来てくれた。
『車がボロいけどビックリしないでね』と笑いながら、アンティークのガタガタの車で家まで運転してくれた。私はその車に
Back to the futureと名付けた。
文房具屋の前まで着くと、荷物を抱えて中へ案内してくれた。
お店には奥さんのアリアンナさんが待っていてくれた。お店の奥は彼らの住まいになっていて、ハチとハナという犬が走り回っていた。
今日から数日間ここでお世話になる。



25 de mayo村でお世話になる、左:ギシェルモさんと中:アリさん


 ギシェルモさんは日系三世で、出稼ぎのため6年間日本とアルゼンチンを行ったり来たりしていた。
現在はこの町で奥さんと一緒に文房具屋を営んでいる。
夜にはさっそくフォルクローレを聞くことのできる“ポカ・プルマ”というバーへ連れて行ってくれた。
車の中から見えた月は、沈みかけの太陽のように大きかった。
家も建物もない草むら道をひたすら走り、途中アルマジロが死んでいるの見た。なにもなかった所に突然明かりの付いた大きな小屋が現れた。
バーは昔駅だった場所を改造して作られていて、赤を基調にした店内は、大きな壷の暖炉と楽器が置いてあった。
到着して
30分も経つと、15のテーブルは満席になった。
小太りの男性が見事な声量とパフォーマンスでフォルクローレを歌い、カウンターにはベレー帽とポンチョをまとった、がたいのいいガウチョが座っている。見た目は怖そうで近づきがたいが、写真を撮っていいか訪ねると快く
OKしてくれた。
ミニコンサートは夜中じゅう続き、私たちは
2時頃バーを出た。

 ブエノスアイレス州は都会のイメージしかなかったが、この日だけで一気にそのイメージが靴替えされた。
田舎はなにもないという人もいるが、あるものが見えないだけだと私は思う。
街頭もない砂埃の舞う雑草の間の細道を、小石にタイヤをつまずかせながら、
Back to the futureに乗って今にも落ちそうな月を見る。
風に揺れる草の音は、幼い頃に聞いた野原の音と一緒だった。
写真に写しても、文章に書き記しても、体で感じる以外に場所というものを理解する方法は他にない。だから私は旅をする。


                       村のガウチョ

ERIKO