魔法使いのいる喫茶店


いらっしゃいませ。

あら、お客さん。

なんか元気ないですか?


でもここに辿り着いたなら大丈夫ですよ。

この喫茶店は辿り着ける人しか辿り着けない場所なんです。


だからもうここに辿り着いた時点で大丈夫なんですよ。


なんで大丈夫かって?

実はね、ここの喫茶店にはあなたを救ってくれる魔法使いがいるんですけど……信じてくれますか?


え?私?

いえいえ、私じゃありませんよ。

私は魔法使い見習いってところかなぁ。


ふふ。魔法使いは、店長です。


私の仕事はあなたのために美味しい珈琲を淹れることです。


よかったら珈琲飲んでいきませんか?






誰にも褒められないのは悲しい


「私が魔法使い?あっはっは!あなた、信じたの?素直な子ねぇ」


颯爽と現れたのは日本人形のような髪型の長身美女。

30歳は過ぎているだろうが、年齢不詳だ。


「私はただ、お客さんたちの話を聞いてるだけよ。魔法使いでも何でもないわ。ただの喫茶店の店長ってだけ」


「ふふ。でも、店長に話すと楽になりますよ。はい、ホットカフェラテです」


目の前に出されたマグカップから、ふわふわと立ちのぼる湯気とミルクと珈琲の匂い。

口に入れると優しい味がした。


固くなった心がほぐされて、胸の内をぽろり、ぽろり、と話し出していた。


「頑張ってるのに誰にも褒められないのって悲しいです。


誰でもやってることだから褒められないんでしょうか?


私の頑張りが足りないから褒められないんでしょうか?


結果が出ないから褒められないんでしょうか?」



「おばかさん。

誰かに褒められるために頑張ると自分がきつくなるだけよ。

自分のために頑張る。

自分のために頑張れなくなった時は、頑張る限度を超えてしまっている時なの。
だから一度休むといいわ。

自分のために頑張ってたら、きっとあなたのことを認めてくれる人が現れるはずよ。

……でも、やっぱり人は誰かに褒められると嬉しいわよね。
褒められたくなったらここに来なさい。
いつだって褒めてあげるわ!

ここに辿り着いたんだもの!
あなたって凄いわよ!

大事なのはね

誰かに褒められるため【だけ】を
目標にして頑張ってしまうこと。

そうすると、誰かに褒められないと自分を認められないってことになっちゃうから。

あなたがあなたを褒めてあげなさい。
誰かに褒められなくたってあなたは十分褒められるべき人間よ」





あなたのところにも魔法が届きますように。

ご来店ありがとうございました。