「新しい靴を買わなくちゃ」のこと。 | 北川悦吏子オフィシャルブログ「でんごんばん」Powered by Ameba

「新しい靴を買わなくちゃ」のこと。

みなさん、お元気ですか?



私の最新映画作品「新しい靴を買わなくちゃ」がもうすぐ上映が終わります。

11月1日、2日、に終わるところが多いみたい。

でも、劇場によっては、やっているところもあるようです。


それを調べようと、ネットで「新しい靴を買わなくちゃ」をやっている映画館を検索していたのですが、

全国のたくさんの映画館で、何回も何回も、この作品は上映されている。

映画ってそういうものなんだけど。

でも、不思議な気持ちです。

知らない映画館の方がもちろん、多いし、

その地域にさえ、行ったこともない所もある。佐賀、とか。福井とか。

そんなところで、上映されてる。


冷静に考えると、奇跡みたいなことだと思いました。

テレビ、とはまた違った奇跡。

ありがたいです。


劇場関係者の方、お客さんになって来てくれた人、ありがとうございます。


この映画、「新しい靴を買わなくちゃ」が終わってしまう前に、

ちょっと、自分の思うところを、書いておきたいと思いました。

実は、きのうも、それについて長い長いレポートのような文章を書いたのですが、

油断したすきに、ガーッと全部消えてしまいました叫び(ブログ、最近、この手、多くない?)。


今は、気を取り直しての2回目です。

うまく書けるといいんだけど。


この映画が、実は私の長年の病気を乗り越えて作られた、とか、そういうことはもうよくって(前の記事でアップしてるよね)、今日は、映画そのもの、のことを書こうと思います。


私は、映画公開、一週間めくらいに、ひとりで映画館に見に行きました。

監督自身が大きなところで見る機会って実は、あんまりなくて

試写会のときなどは、何かまちがってる音がないだろうか、とかカットが変じゃないか

とかチェックの意味で見てますので、

映画としては、入り込めません。


仕事先の大阪で、ひとりでひっそりと見ました。

見てくださった皆さんの中には、キュンキュンした、キラキラしていた、ほっこりした

という方が多くいらっしゃいましたが

私の実感は、それとはまるで違ったものでした。

ズシーンと、来たんです。

重く、深く、自分の中に沈む感じ。


そして、それは、永遠に自分の中に残るだろう、と感じたのです。

多分、こんな映画に出逢えるのは、一生に一度あるかないか、だと思っています。

そう、自分が作った映画に出逢うっ、て変な感じだけど。


風景に例えると、朝もやの湖みたいな(いや、実際には、そんな風景、見たことはないんだけど)。


私は、とうてい、この映画を自分で創ったとは、思えませんでした。

もちろん、セリフもストーリーも書いて、現場にもいるのに。

なぜだか。


ただ、見終わったあとに、プロデューサーに電話をして

「私、この映画が日本じゅうの誰より一番、好きな自信がある」

と言いました。



なんだろう。この感じ。

その日から、私は、すごく妙なことを感じ始めました。

この映画、誰も見てくれなくて、いい。

この映画に人は、前売りだと1300円。フツーだと1800円を出し

それとひきかえに、この映画を見るわけだけど

私は、この映画に、残りの人生、すべて差し出してもかまわない、と思ったんです。本気で。

あと何年、人生あるかわからないけれど

このあとの人生は、近くのスーパーで働きながらでも(ぜんぜん、その手の能力はないから、実際は、すぐクビになると思うけど)、自分は機嫌良く生きていける、と思いました。



自画自賛と思われれば、それまでですが、

自画自賛の気はまるでしないんです。

だって、自分が創った、とどうしても思えないので。

あまりに、好きすぎる世界で。魂を奪われてしまって。


別に、岩井(俊二)さんに全部やってもらった、とか

坂本(龍一)さんがこわくて、何も注文つけられなかった、

とかそんなことはぜんぜんありません。


でも、言えることは、自分がひとりで創ってたら、こういう作品にはならなかったということです。

こういう作品は、出来上がらなかった、ということです。



今でも、はっきり覚えているエピソードがあるんですが、

ロンバケを書いた次の年「最後の恋」というドラマを書いて子育て休暇に入りました。

一年お休みをもらって、その復帰作が「オーバータイム」という作品だったんですが、

あのころは、まだ渋谷ビデオスシダオというのがあって、そこで打ち合わせをしていました。

帰りに、渋谷ビデオスタジオの並びの、おしゃれなCDショップに入ったんです。

HMVだろうか?


そしたら、見知らぬ洋楽の前にポップが書いてありました。

「切実だけど重くない」

と。

それを見たときに、「あ、これだ」と思いました。

自分の書いて来たもの、自分の特性ってこれでは、と。

「あすなろ白書」にしても「ロングバケーション」にしても

「愛していると言ってくれ」にしても、

私の作品は、切実だけど、重くない。


これからも、こういうものを書いて行こう、

なぜなら、きっとこれが私の特性、作家性、と思ったのをよく覚えています。

「切実だけど、重くない」自分としても、すごく好きな感じだ、と。


その後、書いた、そして今、リピートがかかっている「オレンジデイズ」

もそんな気がします。切実だけど、重くない。


でも、

「新しい靴を買わなくちゃ」は重くなくないです。

重い、というと語弊があるかもしれないけど、

ズシンと沈みました。

テーマが重いとか、そういうこととは、また別の話です。


表現方法というか、質感というか。

今までの自分の書いた作品とは、違う空気をまといました。

大人な感じ、とも言えるかもしれない。



今まで書いて来た自分のドラマでは出せない「色」が出せました。

そして、その「色」は、翻って私を虜にしました。

私は自分の絵の具の色に、魅せられたのです。


それは、深く深く、私をつかまえました。


自分が創ったもので、こんな気持ちなるなんて、不思議なものです。


この記事を挙げたのは、

宣伝のため、とかそういうことでは、実はありません。

宣伝だったら、「他の人は見なくていいと思った」なんて、書きませんよね。

正直にそのときの気持ちを書いてしまったけど。


なぜこれを書いたか、というと、もしかして、ずっと私のドラマを好きで見てくれた人の中には

私と同じようにこの映画を見て、見終わったあとも、映画館で動けなくなる人がいるんじゃないか、と思って。



ツイッターのフォロワーさんの中にも、何度も見に行かれてる人、多いです。

もしかして、あなたも。

この映画「新しい靴を買わなくちゃ」。

妙に、なんだか、引き込まれて

深く映画は、その心の底まで占領するかもしれない。



なぜ、私がそうなったのかは、説明できないです。

ただ、ただ、この映画が好き、ということに他ならないけど。

また、軽く「好き」って言えない感じでもあるんです。

好きだから、何回も見に行っちゃえ、とも思えない

なんかこう、足踏みさせる感じなんです。

じれったく、深く。


でも、終わる前にもう一度、行こうかな、とは思ってるけど。


それと、どうしてもお知らせしたかったのは、この感覚、多分、DVDでは味わえません。

何度も、小さな画面で、編集などしてましたが

そのときは、こんな映画になってるなんて、予測がつかなかったのです。


この機会を逃すと

もう、劇場で「新しい靴を買わなくちゃ」を見ることはできないと思うので

よろしかったら、ぜひ。


すごい良かったよー!とか、感動したー♪とは、ちょっと別の感覚です。


第3者のように、この映画を紹介してますが、

要するに私は、すごく自分の好きな映画を自分の手で作った、ということなんだな、と思ってます。


すごく大好きなドラマも、何本か作らせていただきましたが、

それとはぜんぜん違った感じ。

だからこそ、みなさんの中にも

私の書いて来たドラマが大好き、と言ってくださるみなさんの中にも

「ちょっと、この映画。なんだか、今までの北川さんとは違うけど、より好きかも」


という人がいるかもしれない、と思って。


お知らせでした。


これはもう「クル」か「コナイか」は、その人のDNAかも。


そう「新しい靴を買わなくちゃ」。

それは、「クル」か「コナイか」の映画。


長々と書きました。申し訳ないっす。

読んでくれてありがとう。

そして、もし、見に行った映画館で私を見つけたら

そして、あなたも「クル」人だったら

帰り際、一言、「来ました」と私に言ってくれると、ハッピーですニコニコ




2012年 10月31日

北川悦吏子。